■ 迷うがに失う正解

 突き抜ける様な青空に雲の姿は一つも見えない。
 病院の屋上のフェンスに背を預けながら真田は空模様に似つかわしくない灰色の溜め息を吐き出した。
 眉間に寄った皺はいつもより濃さを増して、実年齢を一回りも二回りもさらに上げていた。
 よく幸村が真田の眉間をぎゅっと押さえて、真田がまた老けてる、と笑ったりしてみせたが、今はそんな幸村の姿もない。

――このままではいけない、

 そんな事は最初から分かってはいるが、どうも調子が狂う。
 理由なんて考えずともわかるが、どうしようもないことであるので真田は黙って唇を噛むことしか出来ない。
 そんな無力な自分が憎かった。


「真田、また老けてるよ」


 真田が驚いて後ろを振り返れば、白い寝間着に身をつけた幸村がそこにいた。
「病室で大人しくしておかなくてはならないのではないのか?」
「今日は調子がいいから平気だよ」
 尚も何かを口にしようとした真田の眉間を押さえ、幸村は微笑む。
「真田は俺のこと心配しすぎ。俺のことなんかより、部活の方は大丈夫なの?」
「うむ、皆精進しているぞ」
「ならよかった」
 幸村がふいに空に手をかざす。太陽の光と共にそのまま消えてしまうのではないかと、急にそんな不安にかられ真田の手が幸村の肩をつかんだ。
「ん?どうかした?」
「いや…その……」
「ふふ…真田は心配性だね」
 ふわりと幸村の前髪が真田の頬をなでる。
 幸村の温もりは確かにそこにあって、背中に回した腕にほんの少し力が入る。
「俺はどこにもいかないよ。…必ずまた戻ってくるから」

 だから、そんな顔しないでよ。

 そう言った幸村の頬は透明な粒で濡れていて、お互いの不安をない交ぜにしてすべてを消してしまいたいと。この温もりで、確かな体温で。


 空は依然、無表情な青さで二人を見下ろしていた。



end.
2012/11/17
御題は輝く空に向日葵の愛を様より



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