■ ごまかすように咳をした
「弦一郎、また精市に無理をさせただろう」
部室から誰もいなくなったのを見計らって、柳がふいにそう口にした。
「……どういう意味だ?」
「言葉の通りだ」
昨日部室で、とまで言ったところで漸く真田は気付いたらしい。耳まで顔を真っ赤に染めて、はくはくと口を無意味に開閉させる。
「み、見ていたのか……っ!?」
「見ていた、というより聞いていた、という方が正しいと言える」
真田は目を白黒させながら必死に弁解しようと努力するが、焦りの方が先走って頭がまっ白になる。
「別に恋人同士なのだからかまわないとは思うが…TPOぐらいはわきまえろ。赤也を入らせないようにするのは大変だったんだぞ?」
「う……すまない」
「ところで、好奇心半分で聞くが、もう最後までいったのか?」
「……それは言わなければならんのか?」
「部内に広めていいというのならかまわないが」
狼狽える真田を余所に柳は愉しげに笑みを深めた。
end.
2012/11/10
御題はAコース様より
[
prev /
next ]
70/303