■ 今更、素直になんてなれるか

 冬の空気はぴりりと乾燥中。ぴんと張り詰めた冷たい風が嘲笑うかの様に頬を撫でていく。首に巻いたマフラーが靡く度に幸村は寒さに首を竦めた。
 今日の最低気温は氷点下で、雪が降るかもしれないとのことだった。地域的に積もることはまずないだろうが、雪はわりかし好きなので少し楽しみでもあったりする。
 寒さに弱いわけではないので大して苦痛になるわけでもないし、防寒具も一式揃っている。どうせ放課後には部活もするのですぐに体は温まる。寒さも慣れさえすれば案外平気なものであるし、下級生も耐えられるだろう。
 それよりも先に、雪の中でも部活は実施されるのだろうか。そんな疑問を余所に、幸村は酷く上機嫌に校門をくぐった。



「本日の部活は中止だ」

 寧ろおまえはやる気だったのか、と呆れ気味に真田に言われて、勿論やるつもりだったよ、と言い返せばさらに深い溜め息を返された。
「阿呆、今日運動部はバスケ部以外全部活活動中止だ。朝放送があったろう」
「そうだっけ?」
「そうだ。…校内放送ぐらい聞いておけ」
 じゃあ部室でミーティングでもする?と幸村が提案すればどうせだべるだけだから止めておけ、と釘を刺される。 つまらない、と呟いた先。付き合ってやらんでもない、と真田が言うのでじゃあ二人きりでミーティングしようか、と話を纏めて晴れて第一回部長副部長による二人ミーティングが開かれることとなった。


「……っていうか。実際二人じゃ何も出来ないよねぇ……」
 今さら過ぎる一言を零したところで幸村は部室の隅に置かれた机にべたりと俯せる。
 部誌の整理を一通り終えた真田は纏めた部誌の角で軽く幸村の頭を叩く。
「少しは手伝え幸村」
「そういう仕事は真田の方が向いてるじゃんか」
 そのまま動こうとしない幸村の頭をくしゃりと鷲掴んで真田は力任せに髪を乱す。
「なにすんだ馬鹿真田!」
「…一緒にいたいならいたいと、素直に言わんかアホ幸村」
 思わぬ返しを食らった幸村が慌てて顔をあげる。その動きが余りにも俊敏で、思わず真田は笑いを零した。
「笑うな!」
「笑ってない」
「嘘、」
「嘘だ」
 なんだよ、もう。と頬を膨らませる幸村の髪を緩く梳きながら真田が小さく耳元で囁く。

「おまえがそうやって意地を張る度に俺はおまえを構いたくて仕方なくなるんだぞ?」

 刹那に顔面温度が急上昇する幸村は動揺を隠しきれない、そんな様子で唇をふるわせる。
「そんなこといったって、い、今更素直になんてなれるか!」

 そう吐き捨てた拍子に降ってきた口付けに、幸村は抗う術も無く溶かされる。


 視線の先で、ちらちらと舞う雪が踊り始めた。



end.
2012/2/4
2012/11/19 加筆修正
御題はAコース様



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