■ 目覚めはどうだいマイハニー

「…ん……」

 目が覚めたら、知らない部屋のベッドの上だった。

「目覚めたようだね」

 頭の上から声がして、仁王はむくりと起き上がる。確か制服を着ていたはずなのに今は見覚えのない知らない服を着ている。知らない香りに包まれて、酷く不思議な心地だった。

「あんた…誰じゃ?」
「君が道で倒れていたところを俺が拾ったんだよ。雨の中でびしょ濡れだったし、女の子一人を放っておくわけにもいかなかったからね」
「……放ってくれて構わんかったのに」

 見知らぬ男の部屋に連れ込まれた、というのはとてもまずい展開であるような気がしてならない。仁王は無意識の内に身構えつつも、くしゃくしゃになった髪の毛を手櫛である程度整えた。

「あんな時間にあんな場所で一人で一体なにを?」
「べつに、おまんさんに言う必要はないじゃろ」
「まあ言いたくないのなら言わなくてもかまわないんだけど……ああ、お腹がすいてるなら出来合いのものでよければ何か作るけど、食欲はあるかい?」
「……ある」

 昨日から何も口にしていない仁王のお腹は先ほどからしきりに空腹を訴えていた。ぐるぐると鳴り止まない腹部を押さえながら仁王は恥ずかしさにほんの僅かに頬を染める。

「コーヒーでいいかい?」
「砂糖たっぷりのミルクティーがいい」
「わかった、ちょっとまってて」

 十分ほどで部屋に帰ってきた徳川の手には香ばしい香りを放つ目玉焼きとキャベツの和え物、そして紅茶が盆にのせてあった。

「ありがと」

 仁王は手を合わせて小さくいただきます、と言うとあっというまにぺろりとそれらをすべて平らげてしまった。

「ごちそうさま」
「……そういえば、さっきから聞きたいことがあったんだけど…いいかな?」
「ん、なん?」
「君の名前、教えてもらってもいい?」


 そういえば言っていなかったな、と仁王が自分の名前を口にすれば徳川もそれにならった。

「俺仁王さんの話、もっと聞きたいんだけど」
「ええよ、うちもおまえさんのこともっと知りたいき」



 こうして始まった、不思議な関係。
 お互いのことを知り合ってそこから生まれるのは、恋情以外の何ものでもないのだ。



end.
2012/11/8
御題はたとえば僕が様より



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