■ 恋はゆるやかな死を待っている
浮気。否、違う。そもそも付き合っているかどうかも怪しい二人の関係に、浮気なんて概念はそもそも存在しなかった。
幸村の話によれば柳は赤也と関係をもっているらしい。成る程、よくよく見れば柳の鎖骨の辺りに赤い痕が無数についているのが着替えている最中に見えた。赤い斑点はまるで花を散らしたようで、妙に艶めかしい。
それがどうとかいうわけではない。悲しいとかいった感情もなければ喪失感も悲壮感も、何もなかった。
柳と体の関係をもったことはない。キスを二三回した程度。ただの戯れだったのか、僅かでも恋情をはらんでいたのか。それに関しては自分でもよくわからないが、柳に少しも恋情を抱いていなかった、といえば正直嘘になる。
仁王は柳に恋愛感情を抱いていた。
柳だってそのことにはとっくに気付いていたはずだ。それでも赤也を選んだということはつまりそういうことなのだろう。
「……どうした?」
ロッカーの前で着替えもしないで立ち尽くす仁王の肩を柳はたたいた。
「……ぇ、あぁ。ごめん、ぼうっとしちょった」
我に返った途端に仁王はあっという間に着替えを済ませ、いつもなら軽く赤也をいじってから帰るのに特に何もしないままに部室を出て行く。
「仁王先輩、なんかあったんですかね」
「さぁ……俺は何も聞いていないがな」
嫉妬なんて甘い言葉では片付けれないこの感情に名前をつけたら、楽になれるんだろうか。
答えのない問いに自問自答して、仁王は青すぎる空をけだるげに仰いだ。
end.
2012/11/7
御題はhmr様より
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