■ 呼吸も忘れる恋をした

 放課後の教室というのは存外居心地がいい。開け放された窓から吹き込む風がカーテンを揺らし、沈みかけの夕陽が仁王の髪に反射してきらきらと光っていた。
 何をするわけでもなくぼうっと校庭の方へ視線を向ければ陸上部の連中がせっせと外周している姿が見えた。本来ならば今頃仁王も部活に出ている最中であったはずなのだがちょっとした事情で部活が急に中止になったらしく、特に何もすることもないので仁王は教室で時間を潰している真っ最中だった。
 そんな時、ふいに教室の扉が開く音が聞こえて仁王は反射的に首を後ろに傾けた。
「誰じゃ?」
 振り向いた先には誰もおらず、首をひねりつつ再び前を向こうとすれば背後から両腕がのびてきてたちまち仁王の目を覆い隠してしまった。
 背後の人物がわずかに含み笑いをしたのが気配を通してわかる。
 こんなことをする人物には複数心当たりがあったが仁王はとある根拠をもってしてその人物を特定した。
「……幸村じゃろ」
 仁王がそう言えば背後の人物――幸村はいつものようににこにこと笑みを浮かべながら仁王の目隠しをといた。
「よくわかったね」
「おまんさんは他のやつとちごうて視覚が奪われてもちゃんとわかるからのぅ」
「そんなに俺ってわかりやすい?」
「……花の香りがするんじゃよ、甘い、匂いが」
「自分ではよくわかんないんだけどな―…そんなににおう?」
「俺が人より鼻がきくっちゅ―のもあるやろうけど…幸村の匂いをかぐとな、なんだか安心するんじゃ」

 そういって幸村の首筋に鼻先を押し付ければ顔をあげたと同時に唇を奪われた。
「仁王は口のなかが甘い」
「……美味しいかの?」
「勿論、世界中のなによりもいちばん美味」


 ぺろりと唇をなめる仕草がひどく妖艶で、仁王は思わず生唾を飲み込んだ。



end.
2012/10/28
御題はたとえば僕が様より



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