■ その時は抱擁をお願い

 仁王君と初めて“そういうこと”をしたのは今でもはっきりと覚えています、去年の私の誕生日でした。つまり十月十九日です。
 仁王君は誕生日プレゼントがどうとかわけのわからないことを言っていましたが、私は右も左もわからない手探りの状態で正直不安やその類の感情が先行してどうしてもそれに対して抵抗感が抜けませんでした。
 人前で肌を晒すという行為は私にとって羞恥以外のなにものでもありませんでしたし、いくら恋人である仁王君が相手だからといってその事実は変わりませんでした。
 だからいざそういう雰囲気になっても私自身が勃起することはなく、ただただ仁王君が元気になるばかりでその度仁王君に我慢をさせてしまう結果に終わりました。私はそれではあまりにも申し訳ないと思い自身で抵抗感なり羞恥なりを忘れてしまおうと何度も思いました。
 しかしそれでも私の理性はどうしてもたがを外してはくれませんでした。

 保健体育の授業でマスターベーション――つまり自慰というものの存在を知ったのは仁王君と付き合い始めて半年と少し経った頃のことでした。男性は体が成長すると勃起という現象が起こりそれは同時に快感を伴うものだ、と。この年頃の男子はみなやってあたりまえの行為だ、といっていましたが私はそのような行為に及んだことは一度もありませんでした。
「仁王君は自慰をなさったことはありますか?」
「もちろんあるき、っていうか毎晩おまえさんで抜いとるしのぅ」
 さらりとそんなことを言ってのけた仁王君に私は赤面しつつも、自慰に対する興味というか好奇心はむくむくと大きくなるばかりでした。
「やぎゅうはせんの?」
「私はまだしたことはありません」
「なら俺んこと考えながらぬきんしゃい、きっと気持ちええはずじゃ」
 仁王君の言葉通り私は仁王君のことを考えながら自慰をしてみました。
 甘い痺れと共に訪れる快感は言いようもない愉悦を生み出し、たちまち私は病み付きになってしまいました。
 毎晩毎晩、私は仁王君に抱かれるのを想像しながら自慰に耽りました。しかし仁王君には恥ずかしくてそんなことを言い出せるはずがありませんでした。
「なぁやぎゅ、明日がなんの日か知っとる?」
 仁王君がカレンダーを指差しました。
「なんの日ですか?」
「明日はおまえさんの誕生日の他に俺たちが初めてセックスした日でもあるんじゃよ」
「……よくもそんなこと覚えてますね」
「忘れるわけないじゃろ」
 仁王君は意味深に笑みを浮かべました。私はなんとなくそんな予感がして、はしたないと思いつつもわずかに期待をしてしまいました。
「柳生、俺に抱かれてほしいんじゃけど、かまわんよな?」
 誕生日プレゼントじゃき、また仁王君は去年と同じことを言いました。
 私は迷わず頷いていました。

 その後は仁王君に流されるままでした。仁王君はひどく優しい手つきで私を抱いてくださいました。
 自分のものでないような甘い喘ぎも、快楽に震える体も。すべて非現実的で、それが新たなる快楽を見出しました。

「…っにぉ、くん…すき、すきです……っ!」
「俺もじゃよ」

 とても素敵な誕生日が過ごせました。
 十五歳に、なりました。



end.
まる様リク、28♀で微裏でした!柳生の誕生日とちょうど重なったので誕生日記念風にさせていただきました。
女体化要素が皆無で申し訳ありません…
いざ本番になると狼狽えるけれど自分でやるぶんには平気な柳生ってすごく可愛いと思うのです。

それではまる様、素敵なリクエストありがとうございました!
2012/10/19
御題は魔女のおはなし様より



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