■ 何故って君が好きだから

 仁王君の指先にぺたりとはられた絆創膏。左手中指にひとつと、あとは右手人差し指と小指にひとつずつ。
「仁王君。その指、どうなさったんですか?」
「……ん―…ちょっと…いろいろじゃ」
 明らかに言葉尻を濁す仁王君に私は探るような視線を向けますがそこは流石というか、なんだかんだでその時は結局上手くかわされてしまいました。
 最近はホームルームや部活が終われば我先にと帰ってしまいますし、何かあるとしか思えません。仁王君がこそこそと何かしている時は大抵ろくなことがありませんから、取り敢えず柄にもなく仁王君の動向探ってみることにしてみました。
 柳君が現れたのはそんな時でした。

「柳生、少しいいか?」

 柳君に声をかけられたのは仁王君尾行計画のシミュレーションを終え、さっそく仁王君を追いかけようとした、ちょうどそんな時で。
「なんでしょう柳君」
「しばらく仁王をそっとしておいてくれないか。詳しく理由を言うことはできないが……わざわざ探らずとも直にわかる、だから今は放っておいてやってくれ」
「……柳君がそうおっしゃるんでしたら…わかりました、これ以上の詮索はよしておきましょう」
「あまり気を悪くしないでくれ、俺も口止めをされているものでな」

 一体仁王君は何をしようとしているんでしょうか。気がかりですが柳君に釘をさされたこともあって、私はどうしようもなくなってしまいました。



 それから三日程経った頃でしょうか。仁王君の絆創膏がさらに増えていました。色々な種類の絆創膏をはっているせいで指先がひどくカラフルになっています。
 理由を聞きたい気持ちは山々ですが柳君に言われた通り、今はそっとしておかなければいけません。


 それからさらに三日経ちました。いい加減私の我慢も限界をむかえていました。ここ二週間程ずっと仁王君を抱き締めてすらいません。仁王君が足りなくて、私の体はうずうずしていました。
 私が仁王君の元へうかがったのは昼休みの終盤にさしかかった頃でした。
 少しぐらいなら……と私は屋上にいるであろう仁王君を探しに行きました。私の予想通り仁王君は隅っこの方で丸まって惰眠を貪っていました。
「仁王君、仁王君」
 私は仁王君の肩を揺さぶります。ん、とかう、とかいう声をもらしながら仁王君が目を覚ましました。
「どうしたんやぎゅ―…?」
「…さあ、腕をこちらに」
 私は仁王君の腕を自らの腰に回すよう促すと寝ぼけ気味の仁王君がふにゃふにゃいいながら私の腕の中におさまりました。
 あまりの仁王君の可愛らしさに私の理性が音を立てて崩れていきます。
 ぎゅうぎゅうと仁王君を抱き締めている最中にようやく完全に目を覚ましたらしい仁王君が苦しそうな声を出しました。
「やぎゅ、くるしいからはなしてくんしゃい」
「すいません…つい、」
「あとな、やぎゅ。お願いがあるんじゃ。きいてくれん?」
「勿論お聞きしますよ。なんでしょう?」
 じゃあ目つむって、と仁王君に言われて私は仁王君の指示に従いました。
 手のひらに何か柔らかな感触のものが触れます。
「目、あけてもええよ」
「……?これは……」

 私の手のひらにのっていたのは仁王君をもした可愛らしいフェルトのマスコットでした。それはまるで市販されているものと見間違えてしまうほどによくできたものでした。


「誕生日おめでとう、やぎゅ」


 プレゼントじゃ、と仁王君は恥ずかしそうにうつむきながら言いました。
「柳生に何あげたらよろこぶかわからんくって、参謀に相談したら俺をプレゼントしたらいいだろうって言われて…」
 なるほど、それで仁王君は自身のマスコットを作ったというわけですか。指先の絆創膏は縫ったときのケガというわけですね。
 柳君的には私に食われてこいという意味だったのでしょうが仁王君はそこを別解釈した、と。
「とても嬉しいです…っ…鞄につけてもよろしいですか?」
「ん、俺がいっつも側にいるみたいじゃろ?」
 そしたら仁王君のお誕生日には私も私をプレゼントしなければいけませんね、と言えばじゃあ楽しみにしとくき、と言って仁王君がはにかみました。
 お礼にもなりませんが、私は何回も仁王君にキスをお届けしました。
 予鈴はとっくに鳴り終わっていましたが、もう気にもなりませんでした。



end.
2012/10/17
御題はポケットに拳銃様より



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