■ 砂糖菓子に沈む
※ブン太ショタ化
帰り道の公園でよく一人で遊んでいる赤髪の男の子。通りかかる度に寂しげに遊具で遊ぶその子のことが何故か仁王は気になっていた。昔の自分の姿が重なるというか……それは一種の自己投影だったのかもしれない。
「のぅおまえさん。アメ、食べるか?」
男の子が顔をあげて、この世のすべてを吸い込んでしまえそうな瞳でじっと仁王を見つめた。流石に知らない人からものをもらっちゃいけません云々は家でも教わっているかもしれない。仁王が急いで手を引っ込めようとしたとき、男の子の口が動いた。
「それ、もらってもいいのか?」
「……おん」
男の子は仁王から受け取ったアメの包み紙を丁寧に開けると、そのままそっと口に含む。
「…おいしい、」
口の中でアメ玉をころころと転がしながら男の子は仁王を再度見上げた。
「おまえさん。名前、なんていうんじゃ?」
「ブン太」
「ブン太か、俺は仁王雅治ていうき。いっつもこの時間帯に来るからまた一緒に話してくれんかの」
いいぜ、といって薄くはにかみながらブン太が小指を差し出してくる。
「?」
「ゆびきりげんまんだろぃ」
小指を絡めて、お決まりのフレーズを二人で口ずさんだ。ゆ―びき―りげんまん、うそついたらはりせんぼんの―ます。
「俺、もう帰らないといけないから。じゃあ、また明日な」
「きぃつけてかえりんしゃい」
明日は放課後練習があった気がするが、はやめに抜けてまたここに来ようと。仁王はそう思った。
**
「よぅ」
「あ、ちゃんと約束まもった」
「そう易々と約束やぶったりはせんよ」
仁王は鞄の中からおもむろにアメを取り出すとブン太の手のひらにちょんとおく。
「お土産じゃ」
「…ありがと」
二人で話している内にお互いにいろいろなことを知った。好きな食べ物、嫌いな食べ物、ブン太は食べることが大好きだっていうこと。その他のことも、たくさん話した。
「ブン太はいっつも一人で遊んどるけど、さみしないんか?」
「今は、仁王がいるからさみしくない」
「……そうか」
それから一カ月程たった頃だったろうか。ある日赤也がこんなことを話してきたのだ。
「仁王先輩が帰り道に通る公園あるじゃないですか、あそこ、でるらしいっすよ。……男の子のユーレイが!」
赤也がいうにはその男の子は赤髪で、いつも公園で一人遊んでいるという。
仁王はえもいわれぬ焦りを感じていた。もしかして、まさか。部活なんてもうどうでもよくて、仁王はかけあしで学校を飛び出した。
公園にはキープアウトのテープが張り巡らされていた。
次いで警察が忙しなく砂場の周りを調べている姿が目に入った。仁王はわけがわからなくて、渇ききった唇で小さく言葉を紡ぐ。
「……なんじゃ、これ」
呆然と立ち尽くす仁王の横、すぐ隣にいた主婦たちの会話が聞こえた。
「ブン太くんだっけ、かわいそうねぇ…虐待の末に砂場に…親もえげつないことするわねぇ……」
「……っ…」
もうわけがわからなかった。
仁王は混乱する頭を左右にふって、あふれてくる涙を何度も何度も拭った。
仁王が逃げるように家に帰った後、その事件がテレビで報道されていた。残虐極まりない幼児殺害事件。犯人は男の子の母親。一カ月程前から行方不明になっていた男の子が砂場の中から見つかった、と。名前は丸井ブン太くん。
「砂場にうまっていたその男の子のポケットの中に、たくさんのアメの包み紙がはいってたらしいっすよ。もしかしら死んだあとにも食べてたのかも、なんて」
平静を装いたかったのに、堪えきれずこぼれた涙が頬を伝って。
仁王があげたアメの包み紙を捨てることなくブン太は大事にポケットにしまっていた、そんな事実を知って。
ブン太のことを頭の中で何度も思い出して、あまりのやりきれなさに仁王は唇を噛んだ。
end.
2012/10/15
御題は幸福様より
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