■ 君の後は追わないよ

 教室にはちょっとした人だかりができていた。
 仁王の席の周りに円上に出来上がったそれにブン太は何事かと首をひねる。時折聞こえる硬貨の音。

「おまえらなにしてんの?」

 ブン太がそう言うなり教室の空気が凍り付いた。次いでクラスメイトたちの気まずそうな視線。それで大体の事情はのみこめた。
「…おまえらが今隠したそれ、何?」
 ブン太がはやく、と催促の視線を投げかける。
 しかし誰一人として膠着状態を破ろうとする輩は出てこない。
 しびれをきらしたブン太は人だかりを形成していた男共をかきわけ、事の中心人物の元へと近付く。

「性懲りもなくなにやってんの?」
「なにって…ちょっとした商売じゃけど」

 仁王の手元にあったそれにブン太は思わず目を見開いた。
 それはまあ俗にいう写真集のようなもので、しかもきちんと製本された市販さながらのクオリティのものだった。
 その表紙にはあろうことかブン太の写真が印刷されていて。
「最近やたらとカメラに熱中してるかと思ってたら……こういうことかよぃ」
 予想通り、見た感じ盗撮したものがほとんどだ。
「で、おまえらは金だしてまでこれが欲しいと?」
 半ばあきれてそう零せば人だかりの何人かが激しく首を縦にふったのでブン太は無性に殴り飛ばしてやりたくなった。
「まあそんなおこりなさんな。ブンちゃんは高嶺の花やからこういうことでしかブンちゃんと触れ合うことのできない奴だってたくさんおるんよ」
「それとこれとは話が別だろぃ」
「まぁそうやけど……」

 そう言うなり仁王はその場から立ち上がり手元にあった売れ残りを鞄につめると、そのまま逆方向に逃走をはかる。
 もはや追いかける気もおきないブン太はその場で溜め息を吐き出して、人だかりを一瞥した後に助けを求めるべく柳の教室へと歩み出した。


(仁王、あとで話があるから部室へこい)
(げっ)
(自業自得だば―か)




end.
2012/10/13
御題は邂逅と輪廻様より



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