■ あと10だけ待って

 ひらりと風に舞うスカートが酷く頼りなげに端を捲る。
 男である真田は校則で決められているスカート丈の長さとは全くの無縁であったが、好奇心混じりに生徒手帳の服装の欄に目を通せば『膝が隠れる程度の長さ』とスカートについては定義されていた。
 幸村のスカート丈は大体膝上七センチ程度だから、つまりこの校則は守られていないということになる。
 まあ校則について指摘したところで幸村は聞き入れないだろうから、敢えてその事について言及したりはしない。
 一度スカート丈が短い、と幸村に指摘した時は『下にスパッツを履いているから大丈夫』と一蹴されてしまった。
 真田自身いくら厳格に育てられたとはいえ思春期真っ盛りであるし、幸村の足を見るのは好きだ。女子の体というものに興味を持つのは当然のこと、というか自然の摂理だ。思春期男子が誰しも通る道なのだから何も物怖じする必要もないわけであって。
「なんか顔についてる?」
 隣で歩く幸村の胸元にちらりと視線をやりつつ真田がぐるぐると思考をかき混ぜていれば幸村が不思議そうに真田の顔をのぞきこんできた。。
「いや…なんでもない」
 近すぎず遠すぎずの距離を保ったままそれ以上にも以下にもならない。
 端から見れば恋仲にでも見えるのだろうが、残念ながらそういうわけではない。
 真田は幸村を“そういう目”で見ているが幸村が自分のことをどう思っているかなんてエスパーでも何でもないからわかりっこない。
 むしろ変に刺激して今の関係を崩してしまうよりかは今の現状維持に走るのが真田にとっては良策といえた。
 幸村は綺麗な顔をしているし、男子からの人気も厚い。周りから刺さるような冷たい視線を浴びることは多々ある。しかしそんな幸村の隣にいられるという真田の特権は裏を返せば近くて遠い、とも定義されてしまうわけだ。
 幸村にとって真田は一人の友達であって、けして一人の恋人ではない。
 手を繋ぐとかキスするとかそんなことが出来ない代わりに毎日一緒に帰って互いの家を行き来できる。これ以上の高望みは不可能だと頭の中で割り切っても心の隅で未練がきりりと痛む。
「幸村、」
「なに?」
 リップののった艶のある唇が小さく開く。幸村の視界には真田。しかし真田の視界にはどこまでも広がる青空が広がる。
「おまえは、俺のことを……その、……どう思ってる?」
 こんな抽象的な聞き方ではいけないなんてことはわかっている。それでもこんな回りくどい方法でしか意気地無しの真田は幸村の本心に触れられないのだ。
「……真田はさ、俺に何て言ってほしいの?」
「……ッ…」
 思わぬ返しに真田は柄にもなく狼狽える。
 大きな瞳が真田を捉えて離さない。
 ここは誤魔化すべきなのだろうか、それとも正直に話してしまえばいいのだろうか。
「俺は真田のこと、好きだよ。その……友達とかじゃなくてさ」
 真田は驚いて幸村を凝視する。予想に反して幸村は淡々とした口振りであっさりと言ってのけた。
「まさかこの俺が真田が俺に恋愛的感情を抱いていることに気付かなかったとでも?」
「そ、そうなのか…?」
「そうなのかじゃない!俺が、どれだけ待ったと思って……ッ」
 先程とは打って変わり、幸村の頬は真っ赤に染まっていた。
「俺は、おまえとの関係を壊すのがこわくて……それで…」
「知ってるよ!」
 そんなところまで見透かされていたのか、と羞恥を覚えるより先に、今は歓喜に波打つ鼓動を抑えるのに必死だった。
 腕におさまる幸村の体は気のせいか酷く火照っていて、依然頬は赤いままだ。

「……幸村、」
「しばらくこうしていて」
「……っ、…」
「あと10だけ、」



end.
2012/2/1
2012/11/18 加筆修正
御題は自惚れてんじゃねぇよ様より



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