■ シーツの海で君と遭難
今日の目覚めはいつもよりやけに爽やかで、ひどく気分がよかった。
一人分にしては大きすぎるぐらいのキングサイズのベッドから身を起こし枕元の携帯に手をのばす。時刻は午前七時半を少し過ぎた頃。今日は日曜日で練習も休みなのでいくらでも惰眠を貪ることができる。
一通りの思考を巡らせて再び眠りに落ちようとしたときだ、ふいに背後から声がした。
「けいちゃん、」
聞き覚えのある掠れた低音。ここにいるはずのない、そう、忍足の声。
「…ッ…!?」
急いで体を再び起こすと眠たそうに目をこする忍足が我が物顔で隣で横たわっていた。
「なんでおまえがここにいやがるんだよ」
「なんでって……景ちゃん、昨日のこと覚えてへんの?」
「昨日のこと?」
よくよく見れば忍足は一糸まとわぬいわゆる全裸で、今は一応掛け布団で誤魔化せてはいるが一歩間違えれば放送コードにひっかかるレベルだ。
「別に景ちゃんが覚えてへんっていうんやったらそれでかまわへんけど……」
ふと我に返ってみれば何故か跡部も何も身にまとっておらず、朝妙に爽やかだったのはこのせいかと一人納得する。
「まさか…」
「あとで鏡みとき、ちゃんと証拠のこってるやろうから」
跡部が急いでバスローブを着て洗面台にいけば鎖骨から首筋にかけて赤い痕が点々と続いていて。
「―…っ!」
そのまさかやで、と忍足が笑っているような気がして思わず舌打ちをもらす。
自身との記憶に照らし合わせても昨晩そんなことをしたなんて記憶は一切ない。
「景ちゃんもう起きんの?もうちょっと一緒にねようや」
いつのまにか背後にいた忍足の手をはらいのけると跡部はもう一度赤い斑点を一瞥し、混乱する思考を落ち着かせた。
考えていても何もはじまらないので今はとりあえず忍足を追い出して安眠にすがろうと、そう思った。
end.
2012/10/2
御題はilta様より
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