■ くすぐるように微笑む唇

「好きやで日吉」
「頭でもうったんじゃないですか。今すぐ病院に行くことをおすすめしますが」
「つれんことを言わんといてよ日吉―…俺、本気やのに」
「その台詞を一体何人の女子生徒に囁いてきたんですか。後輩をからかうのもいい加減にしてください」

 遅くまで日吉は自主練をしていたため部室には忍足と日吉以外は誰もいない。
 日吉はさっさと着替えを済ましてしまうと、そのまま一人で部室を出ていこうとする。

「待ってえな日吉」
「なんで俺が忍足さんのことまたなきゃいけないんですか」
「なんでって…人が話してる途中に帰るんはひどいんてちゃう?」
「……結局は何がいいたいんですか、簡潔に述べていただけると嬉しいんですが」
「しゃあないなぁ……言うてわからんのやったら行動で示すしかないやんか」
「……は?」

 忍足は日吉の腕をぐい、と引っ張ると日吉の体を腕の中におさめる。何が起きたか理解できなかったらしい日吉は抵抗の間に一瞬隙ができてしまった。

「俺は本気やで」

 そう言って唇に熱を押し当てられる。
 生まれてこの方たったの一度だってやったことのなかったキスってやつを、忍足に。

「ひよのファーストキス、ごちそうさま」
「っッ!!?」

 目を白黒させる日吉の額を軽く小突いて、忍足は日吉をおいて部室を出て行ってしまった。


 手中に堕ちたと確信しながら。



end.
2012/10/4
御題は魔女のおはなし様より



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