■ 背後からは常套手段

 歩く度にゆらゆらと揺れる尻尾もどきをくい、と軽く引っ張れば仁王が怪訝そうな顔付きで此方を肩越しに振り返った。

「なんじゃ、幸村」

 仁王は後ろ髪を触られるのを酷く嫌う傾向がある。何故だかはよくわからないけれど、とにかく嫌がるのだ。特に根本に触れようとすると全力で抵抗してくる。以前ブン太が無謀にも果敢に挑んでいたが、あえなく失敗に終わっていたのはまだ記憶に新しい。

 ……しかし幸村がここで諦めるはずもなく。
 いかにして仁王の後ろ髪を手中におさめるのか、幸村はそんなことばかりを考えていた。

「幸村、いまなんかたくらんどるじゃろ」
「あ、わかる?」
「ばればれじゃよ」

 ペテン師は他人の悪巧みにも敏感なんじゃ、と仁王が得意気に言った。

「じゃあ仁王、俺がいまなに考えてるかあててみて」
「ど―せまた後ろ髪ねらってるんじゃろう?」
「さっすが仁王!あったり―」

 幸村の口角がほんの少しあがったような気がして、何か嫌な予感がよぎり仁王が振り返ろうとした、その時だった。

「や―っとつかまえたぜぃ」

 いつのまにいたのか、ブン太が仁王の脇下から腕をまわし後ろから羽交い締めにする。

「ちょっブンちゃん、はなしんしゃい!」
「や―だね。ほら幸村くん、今がチャンスだよぃ」
「わかってるよ、」

 幸村が菩薩のような笑みを浮かべながらじりじりと仁王に近付いてくる。

「やっやめんしゃい幸村!こっちくんな!」

 仁王の静止の声が受け入れられるはずもなく、幸村の手は仁王の後ろ髪へとのびる。
 幸村がそっと仁王の後ろ髪に触れれば、仁王がぎゅう、と両目をとじた。
 同時にびくりと肩をふるわせて、ふるふると首を横にふる。

「くすぐったいの?」

 こくこくと頷く仁王に幸村は楽しそうに尻尾をくいくいと引っ張る。

「―…っ…!」

 とうとう膝を折ってしまった仁王の頭を撫でながら、幸村は終始笑みを絶やすことはなかった。



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2012/9/25


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