■ 正直者が馬鹿を見る

 友情をとるか、恋情をとるか。
 柳とて自ら進んで真田を裏切ろうとしたわけではない。
 ちょっとした偶然が重なって同じ人物を好きになり、同じく偶然、幸村は真田を好きになった。
 幼い頃からずっと共にいたのだからそのような思いを抱くことはある種必然だったのかもしれない。
 その事実を知って柳が身を引くのかと問われれば答えはノーで、どんな手段を使ってでも幸村を手に入れようと、そう思っていた。

「え、れんじ…?いま、なんて」
「だから、俺はおまえのことを…精市のことを好いている。勿論、恋情の意味でだ、けして友情の延長ではない」
「……でも、俺は、ね」

 俯く幸村を腕の中におさめ、柳はそっと唇に口付ける。

「俺のものになれ、精市」

 戸惑った吐息が混乱した幸村の思考をじわじわと助長させている。
 柳はもう一度、幸村に口付けた。今度は触れるだけにとどまらず、薄くあいた唇から舌を躍らせる。

「俺は、俺は真田のことが…ッ…」
「おまえが弦一郎に抱いているのは果たして本当に恋情なのか?」
「……え?」
「精市はもしかしたら友人対する“好き”と好きな者に対する“好き”を混同しているんじゃないか?」

 耳元でそっと、よく聞こえるように柳は囁く。
 友情なわけがない、それをわかっていてなお柳は幸村に追い討ちをかける。

「俺を好きになれ、精市」
「……っ、…」

 強張っていた体から力が抜けていくのを確認して、柳は甘い言葉を吹き込みながら何度も、何度もキスをした。



鹿



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2012/9/19
御題はJUKE BOX.様より


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