■ 本音は言わないお約束
毎日学校で顔を合わせるというのに、帰り道に角で別れるときブン太はいつも永遠のさよならを味わうみたいな錯覚に陥る。
触れるか触れないかの距離でふわふわしていた手をとって、ぎゅうと握る。はなれたくない、さよならしたくない、と。
でもブン太は今から家に帰らなきゃいけなくて、でもずっと仁王と一緒にいたい。仁王も同じ気持ちなのか、実際どうなのかはわからないけどしっかりと手を握り返してきた。
そうやってますます離れられなくなる。手を、離せない。
「今日はこれでおしまいじゃ、ブンちゃん」
「あともうちょっと」
「じゃあ十数えるき、それまでな?」
「……うん、」
小さく、でも確実に数え上げられる数字。
ブン太は人目をはばかるのも忘れて仁王に抱き付く。仁王は数字を数えることをやめることはせず、しかし自身もブン太を抱き締め返した。
「ご、」
仁王の胸元に顔をうずめて、仁王の匂いを思い切り吸い込んで精一杯の幸せを体中で感じる。
「に、」
あともう少し、少しだけ。
「いち」
ぜろ、と言った瞬間に唇を合わせて、さよならのキス。また明日のキス。
「じゃあまた明日な」
「朝練さぼんなよ」
「ブンちゃんこそ、寝坊したらあかんよ?」
余計なお世話だし、と言ってブン太はゆっくりと仁王から離れた。
とても名残惜しいけれど、また明日。
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2012/9/18
御題はilta様より
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