■ なにも、知らないくせに

※微微裏


 ちょっとした人だかりができていたから一体何事なんだとのぞいてみれば、その中心には見知った顔が立っていた。
 B組ではさきほどパンケーキを作る調理実習が行われたばかりで、女の子たちが自分の作ったパンケーキを我先にと仁王へ渡しにいっているらしい。
 勿論ブン太だって作った。料理やお菓子作り関してはブン太の右に出る者はいないと思っている。実際出来上がったパンケーキもまるでお店で売ってあるやつみたいだ。味にも自信がある。
「俺んために作ってくれたん?ありがたくいただくぜよ」
 女どもの黄色い声が酷く耳障りだ。仁王の彼女はブン太であるというのに、そんなのもお構いなしで皆仁王に寄っていく。
 前から仁王がモテることは知っていたが、もはやここまでくるとまるでどこぞのアイドル並の扱いだ。
 仁王が格好いいのも、割と誰にでも優しくするのも、全部前から知っていることだ。頭の中でわかっているのに、それでも無意識の内に心の隅にしこりができてしまう。でも、ブン太はそれも仕方のないことだと思う。
 そんなことをぐるぐると頭の中で考えている内に次の移動教室は一緒に行こうと言っていたのに、仁王は例の集団にもまれつつそのまま行ってしまった。
「……っ、…」
 クラスメイトに対する嫉妬というよりかは、理不尽かもしれないけれど今は仁王への怒りの方が大きかった。




 本当は今日も一緒に帰る予定だったけれど、そんなのもお構いなしにブン太は一人で帰った。どうせブン太がいなくても取り巻きの女子が一緒に帰ってくれるだろう、そんなことを思いながら。
 一度無視を決め込んでしまえばあとは楽なもので、帰りは勿論お昼の時間も幸村くんと一緒に過ごしてなかば仁王のことは頭から消えていた。ああ、そんなやついたな、ぐらいの認識。
 とにもかくにも、意識の隅でざまあみろ、と思っているのは確かだった。

「仁王、そうとうまいってるみたいだよ―?部活にも手がつかないぐらい」
「他の女子ばっかかまうから悪いんだよぃ、自分がモテるからって…俺の気持ちなんて考えてね―んだよどうせ」
「……あのねぇブン太、ブン太の知らないところで仁王だって相当苦労してると思うよ?」
「苦労って、なんの」

 まさか気付いてないの?と幸村くんが意味深な台詞を吐くものだから、気になってブン太は軽く机から身を乗り出す。

「まぁ丁度ご本人様もきたことだし、一度二人でゆっくり話し合ってきなよ」

 背後に気配を感じて振り返ればいつのまにか仁王が立っていて、反射的に身を引こうとしたがそんな努力も虚しく腕を掴まれそのまま教室から連れ出される。

「ちょっいたいって!はなせよ!!」
「……いいから黙ってついてきんしゃい」

 腹の底から冷えるみたいな冷たい声で言われて、ブン太は下唇を噛む。
 雰囲気からでも、仁王が普段からでは有り得ないほどにおこっているのがわかった。

 仁王に連れてこられたのは滅多に使われない空き教室で、散乱した椅子を二つ取ってきた仁王に渋々座らされる。

「ブンちゃんはなんで俺がおこってると思う?」
「……無視したから」
「あほう、そんな理由とちゃう」
「じゃあなんだよ」
「ブンちゃんはな、自分の魅力がわかっとらんからそんなふわふわしてられるんじゃ」
「ふわふわなんかしてねぇよ。女子に囲まれてふわふわしてんのはおまえの方だろ」
 その一言が引き金だった。

「なんもわかっとらんのはおまえじゃ!!」

 仁王が机を勢い良く殴りつけた瞬間に机に積もっていた誇りが軽く宙を舞う。
「ブンちゃんは可愛くって、愛嬌があって、人気者で!そんなブンちゃんをみんなが放っておくわけないじゃろう!」

 ブン太は一瞬仁王が何を言っているのかわからなくて、思わずごくりと息をのんだ。

「ブンちゃんに寄ってくる虫おっぱらうのに、俺いっつも必死なんよ?挙げ句の果てにブンちゃんを邪な目で見てくる女子まで出てきて、」
 その女子を追い払うためにわざわざ女子の取り巻きの中に入って情報収集をしていたのだ、と。
「…ごめん…そんなの今まで全然気付かなかった」
「バレんようにやっとったから、それが普通じゃ」

 仁王は耐えきれない、とでもいうかのようにブン太を抱き締めて、そのまま唇を奪った。

「ブンちゃんは俺のもんやって、体に覚えさせちゃるから。覚悟しんしゃい」




 有無も言わせない手際のよさでワイシャツを脱がされて、あっという間にブラとスカートのホックが外される。
 たちまち外気に曝される肌。ブン太はあまりの羞恥に仁王の肩に顔を埋めた。
「痛かったらちゃんというんじゃよ?」
 ブン太がこくこくと頷くと仁王は王子様みたいに優しく微笑んで、もう一度ブン太の唇にキスをおとす。

「にぉ…っにおう…ッ…」
「はいはい、泣かんでもええて。もうおこっとらんよ」


 それでも泣きじゃくるブン太の頭を何度も撫でながら、何度もキスをした。まるでこれは自分のものだと主張するように、何度も、何度も。




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柚野様リク、仁ブン♀でモテる仁王に嫉妬して冷たくするブン太にキレる仁王でした!完成が遅れて申し訳ありません…!
仁王が本気でキレることってほんと滅多にないと思うのですがブンちゃんのことを思うあまり先走っちゃう仁王とかいいですね。お互いに嫉妬しまくって最終的にいちゃいちゃしとけば問題なしって感じです。

それでは柚野様、素敵なリクエストありがとうございました!



2012/9/14
御題はAコース様より


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