■ ただ、墜ちている
「ん…ッ」
誰もいない教室。いくら誰もいないとはいってもこんな場所でキスするのはマナー違反であるような気がする。何より、誰かに見られるのは非常に困る。
「…幸村、…っ」
珍しく余裕の無さそうな真田が再び唇を重ねてくる。
真田なりの配慮なのか、万一誰かが教室に入ってきても一応は真田の背中しか見えないようになっている。つまり俺が窓に背を向けてそれに真田が覆い被さる、そんな姿勢。
「……っ、なんか、あったの?」
ようやく唇を解放されて問うてみれば、真田の表情が僅かに揺れた。
「……今日、同じクラスの女子に…その、告白されていただろう」
「…見てたんだ?」
「……盗み聞きをするつもりはなかったのだが……」
要はその女子に取られるかもしれないと、真田は不安になったわけだ。
「俺は真田以外の子を選んだりしないよ」
「それぐらいわかっている」
ぎゅう、と抱き締めてくる真田の腕の中がやはり心地よくて、むしろ離れられないのは俺なのかな、なんて。
「ねぇ真田、もう一回キスして」
俺のことを抱き締めていいのも、キスしていいのも、真田だけなのだから。
end.
2012/1/30
2012/10/21 加筆修正
御題はAコース様より
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