■ つまり、負かされた
雲一つない青空の下。パンク寸前の自転車を跨いで、ブン太は土手沿いを疾走していた。
極限に短くしたスカートが風にあおられてひらひらと頼りなげに捲れる。そんなのもお構いなしにブン太は自転車を漕ぐ足を止めようとはしなかった。
「らくちんじゃの―」
「そりゃあよかったな薄情者!」
ブン太の後ろにはシャボン玉を片手に持った仁王が我が物顔で乗っている。ふわふわと浮かんでいるであろうシャボン玉は残念ながらブン太には見えない。
そもそも、通常ならばこの立ち位置はまったくの逆であるはずだ。二人乗りをするなら彼氏が自転車を漕いで、その後ろに彼女がひっつく。つまりはやはりこの状況はおかしい。いくらブン太が一般女子より体力があるからといって、こんな仕打ちは有り得ないはずだ。
「じゃってブンちゃん、じゃんけん負けたし」
「そうだけどさ―…やっぱそこは男としてかわってあげるとか、ないわけ?」
「俺しんどいのいやじゃ―」
あくまで自分は漕がないと主張する仁王に食い下がるのも馬鹿馬鹿しくなって、ブン太は思い切りペダルを踏み込んだ。
「今度ブンちゃんがじゃんけんに買ったらのせちゃるよ」
「ぜったいだからな!」
自転車を漕ぐ側にまわったらブンちゃんの姿が見れないから、だから俺は後ろに乗りたがるんじゃよ、と。
そんな本音はシャボン玉と一緒に飛ばした。
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2012/9/4
御題は魔女のおはなし様より
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