■ 涙の冷たさを知った夜明け前
「…っあ、ぁ…ッ…」
揺さぶられる思考回路。ひっきりなしに喉から漏れる嬌声。頬を伝う涙が汗の粒と混ざって、顎から鎖骨へと滑る。
「にぉ…っにおう……ッ!」
「仁王君はきませんよ。きっと今頃必死に貴方を捜しているでしょうね」
酷く愉しそうに木手が笑う。体をつんざく快楽が、理性を掻き乱す。
「貴方と私は相性がよいようなので、もう少し付き合っていただきますよ」
「……っやめ、やだって…っ」
抵抗すれども木手相手に力ではかなわない。あっさりと両手を押さえ込まれて、強制的に快感を覚え込まされる。
仁王、仁王。
頭に浮かぶのはただただ恋人の面影だけで、だけれどたった今ブン太を理不尽な暴力で犯しているのは。
「折角のお楽しみの時間なんですから、今他の人の名前を出すのはルール違反じゃないですか?」
「…ッゃだ、くんな、やめろ!」
これ以上この男に染められるのは嫌だった。体を奪われても、唇だけは奪わせたくないのに。
無情にも寄せられた唇。
そうしてかたく噛み締めた唇。
木手はブン太のささやかな抵抗を見越したかのように、絶妙のタイミングでブン太の体に微弱の刺激を与えた。
思わず漏らした嬌声。わずかに口を開いた隙に木手の舌がブン太の舌を絡めとって。
――嗚呼、おかされていく
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2012/9/3
御題はAコース様より
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