■ はじめては今じゃないといけない

 背中に感じる刺すような視線。
 きっと今後ろを向けばあいつがいる。

「どうしたの真田、なんかついてる?」
「い、いや別に何もない」

 明らかに狼狽える真田に、幸村は内心苦笑した。

 真田が幸村のことを好きだということは周知の事実で、真田自身は隠しているつもりらしいがまったくそんなことはなく。真田という男は本当にわかりやすい性格をしている。それはもう、清々しいほどに。


「いい加減告白してくればいいのに」
「おまえから逆告白はしないのか?」
「そんなことしたらつまんないし、なにより真田が可哀想」

 可哀想のベクトルが少々ズレ気味なような気もしたが柳はあえて口には出さず、ただ成り行きを見守るにとどめておくようだった。




 何度も言うように真田は本当にわかりやすい性格をしていて、表情ひとつで大体何を考えているかわかる。
 お互い男子テニス部、女子テニス部の部長としてコートの使用日についての話し合いをしていたのだが真田の視線は終始泳ぎっぱなしで、話し合いの内容はあまり頭に入っていないように思われた。

「ちょっと真田、ちゃんと話聞いてる?」

 聞いている、と真田は主張したが誰がどこを見ても奴は完全に上の空だった。

 そうして話し合いが終わり、痺れをきらした幸村は真田を呼び出した。

「部長なんだから真田がしっかりしないとテニス部全体がだめになるだろ!何について悩んでるのかは知らないけど、私的なことを部の話し合いにまで持ち込むのはよくないと思う」
「す、すまない……今度から気を付ける」
「わかったならいい」

 そう言って幸村が立ち去ろうとした時だ。真田が幸村の腕を掴んだ。

「幸村、少し話があるんだが……時間をもらってもいいか?」
「別に、かまわないけど」

 真田が真剣な顔をすればするほど、幸村は笑いを噛み締める。だって真田が何をしようとしているかなんて手に取るようにわかるのだから。





 有り得ないぐらいの間をおいて、真田は幸村への告白を決行した。
 きっと家で何度も練習してきたのだろう。時折噛みつつも真田は自分の気持ち を幸村に明かした。
 幸村とて断る理由もないし、むしろ嬉しいとさえ思っている。
 しかしだ。ここで幸村が簡単に返事をしてしまっては真田の努力と少々張り合わないような気がしたのだ。

「……一週間、一週間だけ考えさせて」

 幸村の中ではもう答えは決まっている。それでも一週間。真田へ報いる一週間だ。

「わかった。…一週間、待とう」


***


「やはりおまえはえげつないことをするな」
「えげつないなんて言わないでよ。これも真田のためを思ってのことなんだから」
「とか言って、実際は反応をみて楽しみたいというのが本音なんだろう?」
「…まあ、そうだけどさ」


 真田は以前にもまして落ち着きがなくなった。
 部活中も授業中も、ずっと上の空だ。

「このまま放置するのは少々不味いんじゃないか?」
「大丈夫だよ、あと二日だし」

 幸村自身、完全に事を軽くとらえていた。
 そしてちょっとした事件が起こったのはその直後だった。


「真田が倒れた?」


 にわかに信じがたい柳の言葉。あの真田が倒れた?そんな馬鹿な。

「授業中にぱったり倒れたらしい」

 とりあえず様子を見に行ってやれ、と言われ幸村は少し急ぎ足で保健室へと向かう。

「……さなだ、」

 保険医がいうには倒れた原因は連日の寝不足による貧血らしかった。なるほど、真田の目の下には真っ黒な隈ができている。

「俺のことぐらいで思い悩むとか、馬鹿なんじゃないの」

「……俺だって、真田こと好きだよ」

 でもまだ一週間たってないから、それは言えないんだよ。


「やっと返事を聞くことができた」


 眠っていると思い込んでいたけれど、そういうことでもなかったらしい。

「なんだ、起きてたんだ」
「しばらく安静にしていろと言われたからな」


 しばらくの沈黙があって、互いの視線を絡めながら口付けを交わした。




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匿名様リク、真→→にょた幸からの両思いでした。
大変遅くなってしまい申し訳ありません…!
真田が相当のへたれ野郎になってしまったのですがその分にょた幸が男前になってくれたのでバランスとしてはいい感じになったかと思われます。

無駄に長くなってしまいましたが……匿名様、素敵なリクエストありがとうございました!



2012/9/2
御題は魔女のおはなし様より


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