■ きみの指先に宿る魔法

 不二の声が出なくなってしまったらしい。
 なんでも風邪をひいたとかで、熱はないらしいが喉が炎症を起こしているようだった。

「これ、のど飴。ちゃんと薬飲んで、しっかり寝ること。絶対無理しちゃだめだからね」

 不二はこくりと頷くとポケットからメモ帳とペンを取り出してすらすらと何かを書き込んだ。

『心配しなくても大丈夫。声が出ないだけだから』
「だけっていうけどね!俺は不二の声をはやく聞きたいの。はやく治してもらわないと困るんだから」
『来週には多分なおってるとは思うんだけど……』
「絶対、約束だからね」

 幸村が不二に会えるのは月に一度あるかないかぐらいの頻度だ。お互い部活もあるし、だからその一回一回を大切にしたいのにいつも事はうまく運んでくれない。

「不二が風邪ひいたってきいて、すっごい心配したんだから」
『ありがと、自分の体調管理ぐらい自分でできなきゃね』
「まったくその通りだよ。……お願いだから、ほんとに無理だけはしないで」

 病気云々に関して幸村が臆病になりすぎるふしがある。でも、その気持ちは不二にだって痛いほどわかる。
 だからなるべく病気には気をつけていたつもりだ。まあつもりで終わってしまったけれど。

「ねぇ不二、キスしよ」
『風邪がうつるかもしれないからダメ』
「やだ」

 幸村は不二の手をとると、軽くリップ音をたてて唇にキスを落とす。

「不二の風邪を半分こしたら、治るのがはやくなるだろう?」


 なんてね、と言って笑う幸村を軽く小突いて、不二は小さく笑った。



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2012/8/29
御題は誰花様より

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