■ 戸惑う呼吸は僕のもの
「俺と景ちゃんってさ、磁石みたいやんな」
日頃からわけのわからないやつだとは思っていたが、忍足はとうとう頭のネジが一本とれてしまったらしい。
「相も変わらず意味わかんねぇ野郎だな」
「まあきいてや景ちゃん。でな、俺はお腹の方がS極で、背中がN極やねん。で、景ちゃんは逆」
何が言いたいのかさっぱりわからない。こういう時は軽く聞き流すのが常であるが、たいしてやることもないので跡部はとりあえず忍足の妄言聞いてやることにした。
「で、磁石がなんだっていうんだよ」
「だから、こうやったら景ちゃんは俺とくっつくやろ」
忍足に抱き寄せられ、腰に腕をまわされ固定される。跡部は自身の体温が急上昇するのを感じながら、忍足を突き飛ばそうするがそれは叶わなかった。
「磁石やから、なかなか離れられへんやろ?それってなんかロマンチックやと思わん?」
「おもわねぇよ」
「そんなこといって、顔真っ赤やで?」
「う、うるせぇ!」
きっと背中を見せてもすぐにくっついてしまうのだろうか。
そんな馬鹿なことを考えて、やばい忍足に思考をおかされてる、と。
抱き寄せられ時の体温を反芻して、跡部はわずかに頬を赤く染めた。
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2012/8/29
御題は魔女のおはなし様より
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