■ 僕の心臓があるうちは

※幸村が入院中の話


 真っ白のシーツの波にもまれ、幸村くんはベッドの上で固く目を閉じていた。
 不二がそっと額に手をあてるとぴくりと身じろぎをして、幸村の瞼が開かれる。幸村くんの目が不二の姿をとらえるとほんの少しだけ口元が微笑んだ。

「不二、きてくれたんだ」

 幸村の手のひらが不二の手を弱々しくつかむ。握力などあってないようなものだろう。

「あまり無理して動かない方がいいよ、あまり調子よくないんだろう?」
「少しくらいなら大丈夫だよ、」

 まったく大丈夫な様には見えない幸村の額をもう一度撫でて、不二は悲しげに微笑んだ。

「そんなに、無理して笑わなくたって…自分に嘘なんてつかなくていいよ。…少なくとも、僕の前では」
「……不二は優しいね」

 声はかすかに震えていたけれど、別段幸村が泣く様子はなかった。
 やっぱり、無理してる。

「俺の心臓をね……俺自身の意志でとめられたらいいのにって思うんだよ。自らの意志で死ねたらって」
「残念ながら、幸村くんの心臓は終わりがくるまでずっと鼓動を刻み続ける」
「知ってる」

 頼んだって心臓なんてとめてあげない。
 僕は幸村くんの鼓動を、ずっと聞いていたいから。


 いらないというのなら、僕に頂戴。




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2012/8/28
御題は魔女のおはなし様より


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