■ じっと見つめて、ずっとここにいる

※不二は幽霊が見えるという設定
※オリキャラがでてきます




 幸村くんの背中にぴったりとくっついた、五才くらいの小さな女の子。
 幸村くんと話をする不二の方を、その子がじいっと見つめている。

「ねぇ、幸村くんって妹とかいる?」
「ああいるよ、二つ下に一人」

 二人兄妹なんだ、と幸村くんが言ったので、とりあえず幸村くんの背後の女の子は幸村くんの妹ではないことがわかった。
 視界の隅に入る女の子となるべく目を合わせないようにするが、どうしても気になってしまう。

「ねぇ、幸村くん。ちょっとだけ目つむって」
「いいけど、なんで?」

 いいから、ちょっとだけだよ。不二がそう言えば幸村くんは素直に目を閉じた。
 いいっていうまでそのままにしてて。不二はそう念押しして、女の子の前にしゃがみこんだ。
 幸村くんに聞こえないよう小さな声で名前は?と聞くと、女の子はミチコ、と同じく小さな声で言った。





 不二は俗に幽霊と呼ばれるものの類が見える。幼い頃から霊感が強く、何度もこわい目に遭ってきた。

 ミチコちゃんは何故かずっと幸村くんの周りをついてまわっていた。本当に付かず離れず、といった感じだ。

「ミチコちゃん、おうちはどこなの?」
「おうちは焼けちゃったからないの」
「お父さんとお母さんは?」
「神様がつれていっちゃった」
「ミチコちゃんはついていかなかったの?」
「ミチコはお兄ちゃんと一緒にいくの」

 時折幸村くんの目を盗んでミチコちゃんといろんな話をした。ミチコちゃんは幸村くんをお兄さんだと思い込んでいるようで、なんとかして幸村くんを向こうへ連れていこうとしているようだった。
 彼女に本当のことを言うのは酷であるし、あまり気を逆撫でしてしまうのもよくないと思ったがいつまでもこのままでいるわけにもいかなかった。




「ねぇ不二、誰と話してるの?」

 転機は思わぬタイミングで訪れた。

 ミチコちゃんと話が弾んでいるところを、つい幸村くんに見られてしまったのだ。
「独り言だよ、気にしないで」
「嘘。不二、何か隠してるだろ」
「何も隠してないよ。……信じてくれないの?」

「そこに……誰がいるんだろう?」

 ミチコちゃんの方を向いて、幸村くんが冷たい視線を向ける。幸村くんには見えていないはずなのに、幸村くんとミチコちゃんの視線は見事に重なっていた。「なんで…おにいちゃんなんでそんな顔するの…っ?」
「………」

 ミチコちゃんの目からぽろぽろと涙が落ちて、地面が少し濡れる。

「おにいちゃん、ミチコのおにいちゃんじゃないの?」

 ミチコちゃんが助けを求めて、不二を見つめる。
 不二は迷った。しかしこの機会を逃してはいけないとも思った。

「……ミチコちゃんのお兄さんからね、先に行ってるからって伝言しておいてって、お願いされたんだ」
「このおにいちゃんはミチコのおにいちゃんじゃないの……?」
「ごめんね……違うみたい」
「じゃあ向こうでみんなミチコのことまってるのかな」
「きっとそうだよ。みんなミチコちゃんがいないから心配しているよ」
「じゃあミチコ、神様にお願いしてくる」
「じゃあ、途中まで僕がついていってあげる」
「大丈夫だよ。ミチコ、一人でいけるから」


 そう言ってミチコちゃんは、不二の手を離してすうっと消えていった。




 信じられない、と言った面持ちで幸村くんが不二を見つめる。

「僕ね、幽霊が見えるんだ。……気持ち悪いだろう?」
「幽霊って……不二一体誰と話していたの?」
「幸村くんに憑いていた女の子。大丈夫、もう成仏したから」

 不二は小さく唇を噛んだ。
 あまり人に知られたくなかった、不二の体質。
 気持ち悪いと、嫌われてしまうだろうか。

「別に隠さなくてもいいじゃないか…不二が何を見ているのかはわからない、でも」



 俺のいない場所を見る不二を見るのがさみしかったんだよ、



 幸村くんがぎゅう、と抱き締めてきて、何故だかわからないけど涙が止まらなかった。




-----
2012/8/27
御題は魔女のおはなし様より

[ prev / next ]

205/303
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -