■ 夢から覚めたら抱き締めて
視界を覆う白。
鼻をつく消毒液の臭いも洗いたてのシーツの色も、すべてが嫌いだった。
病気が完治した今でも、幸村は無機質な白が苦手だ。どうしても思い出してしまう絶望や失望感。何もかもを失いかけた恐怖は、何度拭っても拭いきれない。
時折入院していた頃の夢を見て、覚める度にあの時の恐怖を思い出す。
一時期に比べ頻度は減ったが、月に一度の割合で、悪夢は襲ってくる。
「…むら、……幸村!」
慌てて目を開けると、心配そうな顔をした真田と目が合う。
「大分うなされていたが、平気か…?」
「…うん……大、丈夫、」
自分自身にそう言い聞かせるが、額に滲んだ汗がひく気配はない。
「嫌な夢でも見たのか」
「……うん」
「なら話してみろ。悪い夢は人に話すとよいと聞く」
ぽつりぽつりと幸村が先ほど見た夢を零せば、自然に溢れた涙が頬を伝った。
真田は何も言わないまま、そっと幸村を抱き締める。
「でも、真田がいるからもう平気だよ」
「……そうか、」
「……ありがとう」
夢から覚めたら抱き締めて
(おまえのぬくもりで、救われる俺がいる)
end.
2012/1/28
2012/9/30 加筆修正
御題はAコース様より
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