■ その呼吸すら愛せてしまえそうだよ
「とくがわ―」
何の考えもなしに抱き付いたのが不味かった。
仁王は些細な悪戯のつもりだったのだが、どうやら徳川はとんでもない勘違いをしてしまったらしい。
「もしかして君は……俺のことが好きなのかい?」
「……は?」
やっぱりそうだったんだね、と徳川が一人頷く。
仁王があまりにわけのわからない展開に唖然としていると徳川が仁王の腰に腕を回した挙げ句ぎゅう、と体を密着させてきた。
「や、やめんしゃいっ!」
じたばたと抵抗する仁王に君は恥ずかしがり屋さんなんだね、そんなところも可愛いよ、とふざけたことをぬかし徳川が仁王を離そうとしないのでいよいよ仁王は身の危険を感じはじめる。
「勘違いもいい加減にしんしゃい!」
仁王の話をまったくといって聞いていないらしい徳川は端から聞いているだけでもこっぱずかしい台詞を断続的に耳元で囁いてくる。
「みんなみとるし…っ…はなせあほッ!」
ありったけの力で徳川の腕を振り解けば徳川の動きがぴたりと静止する。やっと目が醒めたか、と安堵の溜め息をついた途端、今度は両手を掴まれた。
「みんながいなかったらいいんだね?」
「……なんでもかんでも自分がええように解釈するんじゃなか!」
「君が誰よりも意地っ張りでツンデレなことは周知の事実さ、案ずることはない」
思う存分俺だけにデレを見せてくれ、と至極真面目な顔でいうものだから仁王は条件反射で徳川の頬を平手打ちする。
ぱあんっと結構痛そうな音が響き、いよいよ周りの空気が困惑するのがわかった。
「俺はおまえさんのことすいちょるわけじゃなか!」
「それを意訳すると“愛してるよハニー今すぐ抱き締めて!”…となるわけだな」
「それは意訳じゃなくて超訳じゃ…っ」
もはやつっこむ気力もなくなりつつある仁王は長い長い溜め息をわざとらしく吐き出す。たいして時間がたっているわけでもないのにどっと疲れた。
「そんなに周りの目が気になるのなら俺の部屋にくればいいよ」
「……だが断る」
「ありがとうそんなに喜んでくれるなんて思わなかった」
「だから人の話をって……はっはなしんしゃい!!」
徳川は仁王を軽々とお姫様だっこするとすたすたと自分の部屋へと帰っていくのであった。
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simpleのなかみせ様へ相互記念品として贈らせていただきます。遅くなってしまい本当に申し訳ないです!
完全に徳川変態あほルートに走ってしまったわけですが相楽の中の徳川はあほ全開なのでこうなりました。徳川ファンの方すいません。
徳川の口調が完全に迷子ですがそこは目をつむっていただけると幸いです…
それではなかみせ様、これからもよろしくお願いいたします!
2012/8/27
御題は幸福様より
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