■ 見えないものを愛したい

「あれ、幸村くんそんなストラップつけてたっけ?」

 携帯をいじっていたら横からブン太がのぞきこんできた。ブン太の視線は幸村の携帯についたストラップに注がれている。
「これね、友だちが買ってくれたんだよ。おそろいのやつ」
「幸村くんにしては可愛らしいデザインだからさ―…もしかしてカノジョとか?」
「ふふ、それはヒミツ」

 幸村が携帯を閉じればストラップも一緒に揺れる。深い藍色の、月を象ったそれ。




「不二からもらったストラップね、ブン太が可愛いって言ってくれたんだ」
『本当?それ結構選ぶのに時間がかかったから…なんだか嬉しいや』

 きっと電話の向こうで不二が持っている携帯には幸村とおそろいのストラップが揺れているのだろう。不二にはきっと暖色系が似合う。不二の笑顔は、まるで咲きたてのお花みたいだから。

「このストラップをつけてたら、まるで不二がずっと隣にいるみたいな感じがするんだ」
「奇遇だね、僕もそうだよ」

 味わう感覚もおそろいなら、いつでも繋がっていられるね、と。
 ストラップと同じように、不二の気持ちも今揺れているんだろうか。

 寂しさの入り交じった声音の向こう。弾む会話に滲む愛しさにきっとお互い気付いている。

 形のあるものに思いを重ねて、二人はあふれだす恋情をそこに閉じ込めた。



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2012/8/26
御題は誰花様より


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