■ この距離がいとおしいのです
手を繋ぐという行為は思っていたよりずっと恥ずかしくて、でも何故かたったの一度も離したいとは思わなかった。
幸村くんの手のひらは不二の手のひらとたいして大きさが変わらないのに、手を繋いでいるだけなのにまるで体全部を抱擁されてるみたいな錯覚に陥る。
それほどまでに幸村くんの手のひらはずっと大きくて、優しいのだ。
「僕、幸村くんの手が好き」
「え、手だけ?」
「幸村くんの全部が好きだけど、僕は特に手が好き」
「俺も不二の全部が好きだけど、お気に入りはこの場所かな」
そう言って幸村くんの指先が不二の唇をなぞる。
「ねぇ、キスしていい?」
いいよ、という台詞はあっさりと遮られて、返事もしていないのに問答無用で唇を塞がれた。
重ねるだけにとどまるわけがなく、薄く口をあければ待ってましたと言わんばかりに幸村くんの舌が歯列をなぞって甘いそれに思考が隅からとけてしまいそうだ。
「不二は俺とキスしてるときの顔が一番エロい」
「……そんなの自分じゃわからないよ」
「俺だけが知ってたらいいの、不二は全部俺のものなんだから」
不二自身でも知らない不二を、幸村くんだけが知っている。それってなんだか素敵なことかもしれない、と。
もう一度重ねた手のひらはやっぱり甘くて優しくて、一度繋いだら離せない。
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2012/8/23
御題は自惚れてんじゃねぇよ様より
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