■ 君を想う精一杯の言葉
慣れた手つきでアドレス帳から恋人の電話番号を引っ張り出してくる。
通話ボタンを押して三コール。聞き慣れた恋人の声が、不二の鼓膜を震わせた。
「もしもし」
「今、時間ある?」
「あるよ。不二からかけてくるなんてめずらしいね」
「なんとなく、だけど。声聞きたくなっちゃった」
受話器ごしに幸村の笑う声が聞こえて、思わず不二も笑みをこぼす。
こうやって幸村と他愛のない話する時間が不二は好きだった。
ただでさえ短い時間が本当に一瞬ともいえる速さで過ぎて、ちらりと時計を見たら既に時計の針は十二時を少し過ぎたところを指していた。
明日も学校だし、もうそろそろで切らなきゃいけないと思うのに不二はどうしても幸村の声を聞いていたかった。
「今、電話きりたくないって思ったでしょ」
「どうしてそう思うんだい?」
「ん―、なんとなくだけど。神の子のカンってやつ?」
「相変わらず、幸村くんは面白いなぁ」
図星をつかれてほんの少し動揺したけれど、なんとか声音にはでなかった。
「もう遅いし、そろそろ切ろっか」
ああ、この時間が嫌いだ。ずっと聞いていたいけれど、もうお別れの時間。
「ねぇ、幸村くん」
「なぁに?」
あいたいよ、
そうこぼしたら、俺だって会いたい、と幸村が言った。
「また明日も電話するから、そのときに今週どこ行くか一緒に決めよう?」
「……うん、」
今週は確か部活は休みだったはずだから、多分予定はあいている。
「じゃあおやすみ、不二」
「おやすみ……だいすきだよ」
電話を切るのが嫌で、幸村から切るのを待った。
つ―、つ―と鳴る携帯を閉じて、不二は布団を被り、目を閉じた。
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2012/8/22
御題はJUKE BOX.様より
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