■ かくごはしてるでしょうね
「丸井君、」
「へ?なに?」
不穏な空気を消し去るように、ブン太はわざとあっけらかんとした声を出して誤魔化そうとする。
いつのまにか追い詰められていた壁を背中越しに感じながら、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「君には、私のものになっていただきますよ」
「ちょ、意味わかんねぇって…」
だん、と木手の手が壁につかれる。殺し屋の異名も伊達ではないらしい、そらせない視線に本能的な怯えがブン太の瞳に宿る。
「少しでも抵抗を見せたら…わかってますね?」
木手の手がブン太のシャツのボタンをひとつひとつ外していく。
視線をそらしてはくれない。
「……っき、て…」
額から一筋、汗が伝う。
塞がれた唇に、甘さはなかった。
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2012/8/8
御題は魔女のおはなし様より
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