■ 我が儘ハニー
早朝、午前四時。
空調が切れて生温い空気に支配された室内は、じっとしているだけで汗が滲んでくるほどに暑かった。
余りの暑さに目を覚ましてしまった柳生は枕元においたクーラーのリモコンを取ろうしてふと、右腕に絡み付く腕に気が付いた。
柳生の右腕には容易には解けないように仁王が自身の腕を絡めていて、普段の彼からは考えられないほどに可愛らしい表情で仁王はすやすやと寝息をたてていた。
眠っている仁王を起こすのも悪いと思い空いている左手でリモコンを取ると、スイッチを押して空調を稼働させる。起動する音で仁王が起きてしまわないかと不安になったが、仁王は軽く呻いただけでそのまままた寝息をたてはじめる。
姿勢を変えた際にうつ伏せていた仁王の顔が仰向けになり、丁度寝顔がよく見える角度になった。
すっかり目が冴えてしまった柳生は折角なので仁王が起きるまでは寝顔を鑑賞することにした。
閉じられたそこからのびる睫は柳生よりも随分と長く、唇はまるで少女のように桃色に色付き柳生の欲を誘う。
――キス、してもかまいませんよね
紳士たるもの、寝込みを襲うなんて行為は赦されないのだが。しかしこの状況をみすみす見逃すわけにはいかない。
少しだけ、少しだけだから。
自身にそう言い聞かせて、柳生は仁王の唇にそっと口付けた。
仁王が目を覚まさないことをいいことに柳生は仁王の額に、頬に、唇にキスをふらす。
仁王の体の中でも特に弱い箇所――耳に唇を寄せたとき、仁王の目がぱちりとひらいた。
「やぎゅ…?もうおきたん……?」
「ええ、少々寝苦しかったものですから。まだ寝ていてもかまいませんよ、」
「ん、」
仁王はさらに柳生に体を密着させるとしばらくもぞもぞと体を動かしていたが丁度いい定位置を見つけたらしい、そのまま眠ってしまう。
「これじゃあまるで生殺しですね……」
可愛いから別にかまいませんけど、柳生は一人ごちて、仁王の頭をそっと撫でた。
-----
2012/8/2
御題はJUKE BOX.様より
[
prev /
next ]
114/303