■ ありふれた愛が愛しい日

 自分よりも頭一個半ぐらい背の高い恋人を見上げながら仁王は柳生を見つめていた。

「どうしたんですか仁王くん?顔に何かついてますか?」

 頬に手をあてながら首を傾げる柳生になんもついとらんよ、とだけ言って仁王はまた柳生を見る。

「柳生は背高いからちゅ―するとき俺がせのびするか柳生がかがまんといけんなぁと思って」
「私は仁王くんが一生懸命せのびをしている方が好きですが……やはり紳士としてかがんでさしあげたほうがよろしいですか?」
「紳士は自分から紳士なんて言わんよ」

 そう言って仁王は柳生に抱きつくといつも通りキスをねだる。仁王は柳生とするキスが好きなのだ。優しく、ついばむようなそれは仁王のお気に入りだ。

「本当に仁王くんは場所を選びませんね……今ここがどこかわかっていますか?」
「ろ―か」
「そうです、廊下です」

 ただでさえさっきから周りからの視線が体中に突き刺さっているというのにここでキスなんてしたら大騒ぎになることはまず間違いない。

「ここでは駄目です」
「じゃああっち」

 仁王はそう言って階段の方を指差す。

「じゃあ一番上の階まで行きましょう。あそこなら誰もいらっしゃらないでしょうから」
「ん、わかった」

 仁王は柳生の腰に絡めていた腕をほどきさっさと階段を上っていく。

「あまり急ぐとこけてしまいますよ」
「だいじょ―ぶじゃ!」

 案の定屋上に繋がる階段には誰もおらず、仁王は期待に満ちた目で柳生を見つめる。

「あ、いいこと思い付いたき」

 仁王は階段を一段上ると、再び柳生と視線を合わせた。

「これやったらキスしやすいんちゃう?」

 段差の力を借りてほんの少し身長を水増しした仁王は嬉しそうにはにかんだ。


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2012/7/31
御題はたとえば僕が様より


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