■ そしてまた、僕は選択を違える
机の上に置かれたガラスコップ。その中に隠し持っていた瓶から一滴液体をたらりと垂らすと仁王はにい、と口角をあげた。
「どうした仁王?」
部屋に戻ってきた柳を見て思わず頬がゆるんでしまう。今から柳の乱れる姿が拝めると思うと興奮が抑えきれない。
わざとクーラーはつけないままで、はやく柳がガラスコップを手に取らないかと体が疼く。
そもそも、何故仁王が柳に媚薬を盛ろうとしているのかにはちょっとした理由がある。
仁王は以前、柳に媚薬を盛られて散々な目にあったことがあるのだ。そう、これはその時の復讐である。
仁王が回想を終えると同時に柳がガラスコップを取り、一口二口と中身を飲み干していく。
あとは媚薬の効果が出るのを待つだけだ、と仁王がガラスコップから柳に移したときだった。
「残念だったな仁王、」
瞬間、ぞくり、と悪寒ともしれぬ何かが背中を駆け抜けた。
「この俺に一服盛ろうなんて、大した度胸だ」
「なんのことじゃ?」
「とぼけても無駄だ、おまえは俺のコップに媚薬を盛った……違うか?」
迷いない柳の口調に一瞬怯みそうになるがここで折れてしまってはペテン師の名がすたるというものだ。
「柳はなんか勘違いしとらんか?俺はな―んもしとらんぜよ」
「……なら、それを飲んでもらおうか」
先ほど柳が飲んでいたそれを手渡される。勿論今さら引き下がるなんてことはできない。
仁王は渡されたグラスの中身を一気に喉に流し込んだ。
しばらくしたらじわじわと体の芯から熱くなってきて、息が荒くなるのが自分自身でもよくわかる。
「……ッ……!」
「観念しろ仁王、俺にペテンにかけるなんて十年はやい」
「……なんで…っン、わかったんじゃ…?」
「匂いだよ、おまえのポケットに入っているだろう?」
「……じゃあなんできかないんじゃ!」
「散々貞治の試飲に付き合わされたからな、自然と耐性がついた」
完敗だ。ようやく柳に仕返しができると意気込んだのも束の間、その野望は粉々に打ち砕かれた。
挙げ句の果てにに自分で媚薬を飲むなんて羽目になり、高ぶった自身がゆるりと芯を持ち始める始末。
「安心しろ、後始末は手伝ってやる」
そのままベッドに押し倒されて、あとはされるがままだった。
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2012/7/30
御題は誰花様より
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