■ 君の欲しいものは、僕でいいだろう
例えば明日世界が滅びるとして、最後に欲しいものがひとつだけ手に入るとしたら。
その時幸村は迷わずに真田が欲しいと、そう望むに違いない。真田と共に死ねるならばそれで本望だ。それ以外は何もいらないし、逆にいうならば真田以外のもので幸村は満たされない。真田はそれほどまでに幸村にとってかけがえのない、切って離せぬ存在となっているのだ。
「ねぇ、弦一郎」
「……急に、何だ」
「真田の名前ってさ、なんだか不思議だよね」
「……不思議、とは?」
「なんだろう…響きがさ、重みというか……上手く言えないんだけどさ」
名前も含めて、真田のすべてが愛しくて、すべてを手に入れたくてたまらなくなる。
「名前というものは不思議な力が宿っているというがな」
なあ精市、と真田の声が幸村の鼓膜を震わせる。軋む心臓。鼓動を早め、生を刻み、そして叫ぶ。
「もっと呼んでよ、俺の名前」
「おまえが望むのなら、何度でも呼ぼう」
「……ありがたみがなくなるから、今だけでいいよ」
だから俺も今だけ。
弦一郎、そう呼んだ声は何故か酷く掠れていた。
end.
2013/1/1
御題:魔女のおはなし
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