■ 無防備な幸福論

※社会人設定


 大学を無事に卒業して就職を決めてから早数年。大学生の頃から始めた幸村との同棲も未だ続いている。
 そんな中、真田はある決心をしていた。そう、幸村に結婚を申し込もうと。悩んだ末に買った指輪は真田の鞄の中にしまってある。
 少し高めのレストランに予約をして、幸村をそこに呼び出した。あとはこの指輪を手渡して、結婚の申し入れをするだけだ。

「あ、真田待った?」
「いや、今きたところだ」

 実は三十分前から待っていた、なんて口が裂けても言えない。自分の緊張を誤魔化すために、さらには頭を冷やすためにに待っていました、なんて情けないことこの上ないではないか。

「それで、単刀直入で悪いけど話ってなんなの?」

 レストランに入って適当に注文を決め、料理が運ばれてきたところで先に幸村がしびれをきらして話をふってきた。
 真田はどくどくとせわしなく鳴る心臓を全身で感じながら、口を開く。

「その……だな、お、俺と…」
「俺と?」

「俺と結婚してくれ幸村!」

 思いの外声が大きかったのか、周りにいた店員や客の視線が一気に集まる。真田の手には煌めくダイヤの指輪。
 店内の視線が一斉に二人に集まった。
 束の間の静寂、一秒一秒がまるで永遠を刻んでいるかのような錯覚に陥る。店内に流れるビージーエムはサビを終えて、転調へ。


「あれ?この前入籍したじゃん、俺たち」


「……え?」


「だ―か―ら―…前にサインしてくれたじゃない、婚姻届」
「そっそんな記憶は…っ」
「まああの時は真田だいぶ酔ってたからねぇ……」

 唖然とした空気が流れる店内。そんな中幸村は一人にこにこと笑っている。

「とっとにかく!おまえと俺は結婚するんだ…!!」
「わざわざ言わなくても断ったりなんてしないから……もうなんでそんな顔赤くするのさ、こっちが恥ずかしくなるじゃないか」

 その内にあちらこちらから笑い声がもれはじめ、真田は唖然としたままフリーズを続けていた。


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2012/7/25
御題は誰花様より


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