■ 禁断症状
胸をちくりと刺す痛みなんて甘いもので、ちくりどころかぐさりと心臓を射抜かれて今やどくどくと血が溢れ出してきているような気さえする。
「禁断症状、」
「禁断症状?」
屋上で煙草をふかしながら、仁王はぼんやりと空を仰いでいた。
「例えばおまえが煙草に中毒になっているとしよう、」
「例えばっちゅ―か、現在進行形で中毒なんやけどね」
「ではその中毒である煙草をぱったりとやめざるを得ない状況に追い込まれたとする。そこで起きるのはなんだと思う?」
「それが禁断症状っちゅ―やつか」
「つまりはそういうことだ」
ふいに仁王の胸ポケットから煙草の箱を取り出し煙草を一本取り出したかと思えば、柳はあろうことかそれをくわえその先にライターを近付けた。
「柳、煙草吸うん?」
「ん、何か問題か?」
問題も何も、法律違反じゃき、なんて言えるはずもなく。
あくまで優等生という立ち位置を崩そうとしない柳が自ら自分の地位を貶めかねない行為に及ぶことに関して仁王は疑問を抱いていた。
「うまい?」
「史上最高に不味いよ、よくもまあこんなものに快楽を見いだせたものだ」
呆れ混じりに溜め息をついた柳は屋上のフェンスに吸い殻をこすりつけて、意味深に嗤う。
「おまえにとっての煙草(それ)が俺にとってのおまえなんだ、だから」
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2012/7/17
素材はその一瞬のために死ね様より
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