■ なにかを独占したいと思うこと

 校舎裏の茂みの影に隠れて惰眠を貪っていたら、ふいに頭の上の方から声がした。
 両目をごしごしと袖で擦りながら呂律の回らない舌でなんじゃ?、と問えば急に視界を手で覆われる。
 仁王が身を捩って横を向こうとすればそれを阻むようにその手も一緒にひっついてきた。
「あ―もう、やめんしゃい」
 背にした地面に生えた芝生がちくちくと首筋に当たってくすぐったい。あまりの焦れったさに仁王は勢いをつけてその場から起き上がった。
 ごつん、と額と額がぶつかりあって、鈍痛が頭に響いた。痛む額を両手で押さえつけながら仁王は改めて目の前の人物に視線を移した。

「……なんじゃ、幸村か」
「俺じゃ不満かい?」
「こんな悪戯するんやったらブン太かな―とおもうたから」
「まあそんなことはどうでもよくってさ、今、何時かわかる?」

 仁王が首を傾げてみせると、幸村が手にしていた腕時計を目の前にかざした。

「今、何時?」
「よじはんじゃ」
「練習が始まるのは?」
「……よじ、」
「俺のいいたいコト、わかるよね?」

 口元は笑みをたたえているのに、目がまったく笑っていない。

「わ、わざとじゃないき!」
「その台詞、今週で四回目なんだけど」

 仏の顔も三度まで、って知ってる?

 余りの恐怖に仁王が尻餅をついたままじりじりと後ずさるが、呆気なく近くの木に背中がついていよいよ逃げ道が閉ざされる。

「サボり魔にはそれ相応の罰を受けてもらわなくっちゃね?」
「ゆ、幸村っ!とりあえず落ち着いて、な?」
「いやだね、今度こそ痛めつけて二度とサボろうなんて気を起こさないようにしてあげる」

 幸村の手が仁王の顔の横をすり抜けて背後の木にめり込む。おそるおそる肩越しに振り返ると幸村の拳の形を象った穴が三センチほどあいていて。
 幸村の手が仁王の顎をとらえ、ゆっくりと顔が近付く。仁王は息をするのも忘れて、思わず目を閉じた。
 殺られる、そんな言葉が頭に浮かんだ。


「………何をしているんだ?」


 閉じた瞳をゆっくりと開いたその向こう。にっこりと笑む幸村と、その後ろに立つ柳の姿。

「や、やなぎ……っ」
「もう一度聞くが……何をしているんだ、二人とも」

 ようやくこの場から解放される、なんて安心したのも束の間。ただならぬ柳の雰囲気に仁王は嫌な予感しかしなかった。

「俺はちょっと仁王にお仕置きしようとしてただけだよ。怒るなら仁王をたっぷり叱ってあげてね」

 幸村が手を離すと背後の木からぱらぱらと木片が散る。
 すっかり腰の抜けてしまった仁王はさっさと立ち去る幸村を視界の隅に捕らえ、その後に柳へと移す。

「俺が今何を言いたいのか、わかるか?」
「……部活さぼったことおこっちょる?」
「…違う、」
「……え、ちがうん?」

 どん、と突き飛ばされて後ろへと倒れ込む。柳の背後には晴れ渡った青空がのぞき、いよいよ身動きを封じられた。

「俺が嫉妬深い性格であることは知っているな?」
「いちお、知っとる…けど……」
「では、再度聞こう。……俺が言いたいこと、わかるな?」
「……幸村とおった、こと?」
「その通りだ」

 はっとしたその瞬間には仁王の唇は柳によって既に奪われていて、頭の芯からじぃんと熱をもつように体の奥が焦げるように熱い。

「ん…っン、ぁ…っあ」

 何度も絡む舌がじわりじわりと仁王の理性を蝕む。

「俺の許可なく俺以外の奴と二人きりになることはゆるさない。たとえそれが幸村でも、だ」

 もはや反論のひとつも出てきやしない。否、できない。

「わかった、わかったから…のいてくれんかの?」
「だが断る」
「ちょっやなッ―…!」


 芝生がちくちくと首筋にあたって、酷くくすぐったかった。



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由騎様リク、何かに嫉妬する柳仁とのことでしたが無難に人に嫉妬させたらまるで幸仁のような仕上がりになってしまいました……すいませんo..rz
柳に逆らえない仁王くんに萌えます。

返品苦情等いつでもお受けいたします…!
それでは、リクエストありがとうございました!



2012/7/16
御題は魔女のおはなし様より


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