■ 素知らぬふりをして、頬を染める

 部室の方からえもいわれぬ鈍い音が響いていた。

 一定の間隔をおいて聞こえるその音は多分頬と手のひらが正面衝突するものだ。
 もしや真田副部長が誰かを犠牲にして制裁の練習でもしているんだろうか…。
 そこまで考えたところで赤也は背中を何か冷たいものが走っていくのを感じた。

――まっまさか、そんなことあるわけ……

 あの威力をあんな断続的に受けたら常人なら耐えきれずにどうにかなってしまうに違いない。ではあのビンタを受けているのは誰だというのだろうか……?

 なるべく音をたてないように部室に忍び足で入る。とにかくとっとと用を済ませて出ていくべきだと本能が警鐘を鳴らしていた。


「あっ赤也じゃん。英語の補習は終わったの?」

 部室に入るなり幸村部長に声をかけられて、赤也の背中がわずかに震える。
 ゆっくりと声のした方に視線をずらすと、赤也の予想を遥かに超えた光景が広がっていた。
 そこにはロッカーを背に頬を真っ赤に腫らした真田副部長と、その前で満面の笑みを浮かべながら仁王立ちする幸村部長の姿が。

「あ…の…これはいったいどういう状況っスか?」
「ああこれ?俺も真田みたく制裁―っとかしたいからさ、その練習」

 その実験台が真田副部長、というわけか。
 真田副部長は大したダメージを受けてないみたいな顔をしているけどあれは相当な打撃のはずだ。絶対痛い、見てるだけで、痛い。

「まあ結構いい練習になったし、今日はこれぐらいにしとこっか」

 明日も続くんすか、と口からでかかった台詞をなんとか抑え込んで赤也はダッシュで部室をあとにした。



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2012/7/13
御題は魔女のおはなし様より


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