■ 僕達が距離をなくす理由

「柳、猫にでもひっかかれたの?」

 柳の手の甲を指でなぞりながら、幸村が言った。
 柳が自分の手を見ると、成る程、そこにはうっすらと筋が入ってかさぶたができていた。

「……今の今まで気付いてなかった、って感じ?」
「そう…だな、まったく気付いていなかった」

 手から血出てたら普通気付くよね―まあ蓮二は痛点鈍そうだし、と幸村が好き勝手言っている横で柳は唯一の可能性に思い当たって思わず苦笑をもらしてしまった。



「……ッ仁王、あまり爪をたてるな」
「じゃって…も、むりやって…っ…」

 先日の情事中に仁王に思い切り爪をたてられたのを思い出して、柳はいとも簡単に原因にたどり着く。
 仁王は声を抑えると同時に爪をたてる癖がある。普段から手先を使うことが多いらしく、その際に便利だからと爪を伸ばしているらしいのだが、柳からするとその爪は凶器以外の何物でもない。




「あれ、仁王爪われてるし。めずらしいね、いっつも手入れしてるのに」

 向こうの方で仁王が幸村にそう指摘されて、目を泳がせているのが見えた。

 どのように言い訳するのかがみものだな、とまるで他人事のように柳はくすりと笑みをもらした。




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2012/7/12
御題は幸福様より


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