■ 君への愛が迷子らしい

「忍足、帰るぞ」

 彼女が教室に入った瞬間、ふっと教室の喧騒が静まった。
 肩にかかる髪を片手で撫でつける様は、正に妖艶。

「ちょう待って景ちゃん。すぐに支度するから」

 クラスメイトらの視線をものともせずに、忍足は適当に鞄に教科書やらなんやらを放り込んで素早く席を立つ。

「ほな帰ろか、」

 皆の前で見せつけるように跡部の手をとると、忍足はさっさと歩き出す。

「ばか、はなせ!」
「なんで?」
「じろじろ見られんのは気にくわねぇんだよ」
「そりゃこんな美男美女やったら思わず見てまうやろ」
「……そういうことを言ってるんじゃなくて、」
「別にちゅーするわけちゃうねんから、手ぐらいかまわんやろ?」
「…ッ…勝手にしろ、」

 跡部は諦めて忍足の手を握りなおすと、そのまま指を絡める。

「家につくまで手、離したらぶっとばす」
「大丈夫、ぜ―ったい離さんから」

 校門を出てしばらく歩くと同じ様に学校帰りらしい氷帝の生徒がちらちらとこちらに視線をよこしてくる。

「……そんなに俺らって有名なのか?」
「な―にを今さら。美人生徒会長跡部様が誰と付き合うのかっちゅ―のはずっとみんなの課題やってんで?」
「で、おまえが抜け駆けしたわけか」
「ぬけがけなんて人聞きが悪い。俺は景ちゃんと結婚するために生まれてきたんやから当然やって」
「んなくっさい台詞よく真顔で吐けるな、」
「だってほんまのことやし」

 いちばん景ちゃんにお似合いなんは絶対俺やし、と軽くナルシズムが見え隠れする台詞を吐いて、忍足は指を絡めたまま跡部を抱き寄せた。

「ばっ…っ…周りの奴らが見てんだろうが……っ!」
「ちゃあんと景ちゃんが俺のもんやて見せつけとかなあかんやろ?変な虫ついても困るし」

 黄色い声をあげる女子生徒の声が耳障りだ。

「……も、もう十分だろうが!」
「景ちゃんはいつまでたっても初々しい反応してくれるからほんまかわええわ―」
「そんな甘い言葉の数々で他の女もおとしてきたんだろ」
「ん、なに。ヤキモチ?」
「ち、ちげぇよ」

 いつもはクールで格好いい生徒会長だけれど、忍足の前では普通の女の子でいたい。そんな思いに、忍足は気付いているのだろうか。

「周りの目なんて気にせんでええよ、俺の前ではまんまの景ちゃん見せて」

 道路の真ん中だというのにキスを交わして、駄目だと駄目だと思うのに流されてしまって甘い声で耳元で囁かれたら溶かされてしまうに決まっている。


「好きだ…馬鹿、」
「俺は景ちゃんよりずっと何倍も景ちゃんのこと好きやで?」
「……むかつく」




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ぺこ様よりリクエストいただきました、忍にょた跡でした。
少女漫画を目指したらこのような残念な結果になりました……
にょた設定をまったく生かしきれなかったのが心残りです(吐血

いつでも返品可能でございます!
素敵なリクエストありがとうございました…!



2012/7/11
御題はたとえば僕が様より


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