■ 願い事の幸先

 もしも、もしも一年に一度しか会えないとしたら。

「俺なら天の川なんて泳いで渡っていっちゃるのに」
「……金槌が何を言う」

 そんなことないき、とベッドにごろりと寝転びながら仁王はぷぅ、と頬を膨らませた。
 そんな仁王をよそに、柳はさきほどからせっせと何か作業をしている。

「なん、それ」
「近所の方に頼まれてな、」

 そう言って柳は一本の笹に手際良く短冊をくくりつけていく。
 携帯で日付を確認する。今日は七月の六日だ。

「……願い事、最後に書いたのいつじゃったっけ」

 多分、最後にお願いしたのは小学生の頃。何て書いたかは流石に覚えていない。

「短冊は余っているが」
「俺も書いていい?」
「構わない」

 柳が藍色の短冊とペンを手渡してくる。仁王はそれを受け取って、ベッドから起き上がる。

「書きたいことがようさんあるき、迷うてしまうのう」
「別に一つだけ、という原則はなかった気はするが」
「そこは暗黙の了解じゃろ。何においても願い事は一人一つってきまっちょる」

 仁王は散々悩んだ末、ようやく願い事を決めてそれを短冊に書いた。
 それと同時に柳も作業を終えたようで、仁王の短冊を渡すよう手を差し出してきた。

「結局、なんて書いたんだ?」
「柳と一生幸せでいれますように―って」
「……そうか、」


 名前だけ書かれた短冊を笹にくくりつけて、柳はふぅ、と一息ついた。



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2012/7/7


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