■ 黙ってキスでもしようか

「今年は雨降っちゃったね―」
「雨が降っては何か不都合があったのか?」
「不都合っていうか…この雨のせいで一年に一回きりの逢瀬が来年に持ち越しになっちゃったわけだからさ、」

 今日は七夕なんだよ、ほら、お願い短冊にかいたりするでしょ?と幸村が言うとようやく真田も理解したのかうむ、と肯いた。

「このご時世、神様もいい加減に携帯のひとつぐらい持たしてあげればいいのに」

 曇天を見上げながら幸村が物悲しそうな顔をするものだから、真田は幸村の目を両手で塞いだ。

「何さ急に」
「短冊に織り姫と彦星に携帯をあげてください、と書いておけば問題ないだろう……だから、そんな顔をするな」
「……ていうかさ、真田。他人の恋路を気にするより先に、自分の心配するべきじゃない?」
「?」
「あのさぁ、なんで俺が織り姫と彦星の身を案じなきゃいけないわけさ。俺がずっと思い悩んでるのはおまえのこと!」
「……そうなのか?」
「そうなのかじゃない!やっぱ真田は超絶鈍感野郎だ、俺の気もしらないで!」

 ぷつんと糸が切れたみたいにまくしたてる幸村に気圧されながら真田はじりじりと後ずさる。

「なんて付き合い始めて日が浅いわけでもないのにキスどころか手も繋げてないわけ!俺は、ずっと待ってるのに……」
「そ、そんなことがしたいなどと言ったことはないではないか」
「言わなくてもそれぐらい察しろばか!なんでわざわざ俺が言わなきゃいけないの、そんな……女々しいとか真田に言われると思ったら、言い出せるはずないじゃないか…っ」
「……いくら俺が幸村のいう鈍感野郎だとしてもだ。おまえが甘えてくるのを断る必要などはなからないではないか」

 真田は帽子を被りなおすと、うつむき加減だった幸村の顔を両の手ではさみこむ。

「………目を閉じろ、幸村」
「……うん、」



 上から織り姫と彦星がじとめで睨み付けてるかも、と幸村は思ったけれど、二人の分も存分にいちゃついてやろうと心に決めた。





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2012/7/7
御題はたとえば僕が様より


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