■ いいから好きだって言わせて

side:幸村

 無意識の内に姿を目で追っていたり、何気ない仕草にときめいてしまったりするのは所謂恋というものの前兆ではないのだろうか。
 でもこの恋心を自覚したところで超絶鈍感野郎の真田が気付くわけがないし、むしろ思いを伝えないままこのままでいる方がいいかもしれないなんてことも思う。
 今までの関係を自ら壊してしまうぐらいならいっそのこと友人という枠組みの中で飼い殺されたい。側にいるだけなら別段恋人でいる必要はないし、支障なんてない。恋人らしいことがしたいとかいうんだったらまた話は別だが幸村は真田が隣にいるだけで、それだけで十分だった。
 心の奥底では甘い欲望が渦巻いていたけど、幸村はずっと知らないふりをしていた。


「真田、一緒に帰ろ」

 部活帰りに一緒に帰るのも、お互い家に呼び合って勉強を教え合ったりするのも、友人という間柄を築き上げた今までの立派な功績だ。
 手を繋いだりキスしたりなんてことはしたくてもできないけれど、別にそれで構わない。高望みなんてしない。
 真田への恋慕なんて幸村の中でひっそりとしまっておけばいい。

 ずっとそう思ってた。



**


「精市は弦一郎のことが好きなのか?」

 柳にそう言われたのがつい先日の話。今日は柳生にはやく素直に気持ちを伝えるべきです、なんて言われて。挙げ句の果てに仁王には顔に真田が好きって書いてあるき、なんてことまで。

 そんなに幸村精市という人物はわかりやすい挙動をしているのだろうか、なんて真剣に考え出したくなるほど様々な人間に幸村の恋心について指摘された。

「……好きだけどさ、」

 事実はそうであれども、実際に好きだと言ったところで真田が首を縦にふる可能性なんてあるのだろうか。
 誰よりも堅物の真田のことだから色恋なんてたるんどる!とか一蹴されてあっさり失恋するエンドが容易に想像できる。

「最初からわかってるんだ、この恋は実らないって」
「何故?」
「何故って……そんなこと言わなくてもわかるだろう?」

 なぜ柳含め柳生や仁王らは幸村の恋心に気付いているのか、なぜ執拗に構ってくるのか。別に鬱陶しいとかそういうわけじゃないけれど、皆がそうまでする理由がわからない。一概に応援したいから、という理由ではない気がする。
 なんだが結局一人でからまわっている気も、する。

――もしかして空回されてる、とか?

……まさかね。





side:真田

 色恋なんてたるんどる、なんてどの口が言えたものなのだろうか。

 多分、……いや確実に。真田は恋をしている。それは勿論、幸村に。
 天地がひっくり返ってもこの恋は実らない、否、実ってはならないのだ。きっと幸村を手に入れてしまえばあっという間に溺れてしまうだろうから。
 そもそも幸村は真田のことを単なる友人だと思っているだろうし、今さら恋仲になったところでどう接してよいのかもわからない。

「幸村はおまえのことをそういう意味で好いているぞ?」
「馬鹿も休み休み言え蓮二、そんなわけがあるものか」
「信じる信じないはおまえの勝手だが、誰かに取られてしまっても知らないぞ?俺は忠告しておいたからな。後で後悔しても責任は負わない」
「……なんなのだ、一体」

 悪戯にしては少々手がこんでいる風に思う。なら本当だというのだろうか、幸村が真田のことを好いている、なんて。




「さ―な―だっ!」

 柳に言われたことを頭の中で反芻しながら真田は一人思索に耽っていた。
 そんな時にいきなり後ろから抱き締められたものだから驚いて大きく肩が震える。

「なっ、なんだ幸村……」

 いつものじゃれだとはわかっていてもあんな話を聞いた後ではどうしても意識してしまう。
 背中にはりついた幸村を引き剥がしながら真田は己の心の乱れを追い払うためにゆっくりと息を吐き出した。


「ねぇ、真田って俺のことが好きなの?」


「――……!?」

 聞いた張本人が頬を赤らめてどうする、なんて。そんなことを言う余裕さえない。

「……ねぇ、こたえて真田?」

「俺は……だな、」

 気まずい沈黙だけは避けたかった。




 言葉よりも行動で示す、というのは最終的に言葉が出てこなかった時の体の良い逃げなのかもしれない。

「……好き、なのだ。おまえの……ことが」

 そう言って一瞬躊躇い、口付けた。




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秋様リク、真→←幸からの両思いでした!
お互い好きで好きでたまらないんだけど上手く思いが伝わらなくてもだもだしているのを柳とかがちゃちゃいれてたりしてたら萌えるな、と妄想したらこうなりました。

お気に召していただけたら幸いです^^
それでは秋様、素敵なリクエストありがとうございました!



2012/7/4
御題は魔女のおはなし様より


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