■ おいしく食べたりしないから

「……ん?」

 情事後特有の生温い空気に酔いながら忍足は微睡みから意識を覚醒させた。
 隣で静かに寝息をたてる跡部は忍足の腕をしっかりと掴み、柔らかな唇が微かに触れている。
 間近で見れば見るほどに綺麗な跡部の顔に小さくキスをふらせて遊んでいた最中、気まぐれに枕の下に伸ばした腕が何かに触れた。シーツの感触でも、ましてや跡部の感触でもない。

「なんや……?」

 忍足はそのまま手に触れたそれを枕の下から引っ張り出す。
 そしてそれが何かを認識した瞬間、忍足の目がほんの僅かに見開かれた。

「……これ、俺やんな……」

 枕の下にしいてあったのは何故か忍足の写真(多分隠し撮り)で。
 推測するにこれは跡部自らがセッティングしたであろうと思われる。

――まさか景ちゃんが自分で……?


「ん…ぅ……」

 と、丁度いいタイミングで目を覚ましたらしい跡部のうめき声が聞こえた。
 ゆっくりと開かれた瞳が忍足をとらえて、その視線が手元に移る。

「なぁ、景ちゃん。これ…なに……?」

 跡部の目の前で写真をひらひらとさせると、跡部はさっきまで大人しく忍足の腕の中におさまっていたというのに急に飛び起きて忍足の手にあった写真をひったくった。

「みっ見たのか!?」
「まぁ、ばっちり見せてもうたわ」
「わすれろ!今すぐ忘れろ馬鹿!!」

 耳まで顔を真っ赤にする跡部をにやにやと見つめながら忍足はやんわりと跡部の頭を撫でる。

「この写真…どないするつもりやったん……」
「ど、どうって……」
「言われへんようなことしとったん?」
「ち、ちげぇよ!」
「じゃあなに?」

 忍足に頬を両手で挟まれて、いよいよ跡部は動けなくなる。

「ぜってぇ笑うんじゃね―ぞ!」
「笑ったりせぇへんから、言うて?」

 跡部は顔をさらに赤くしながら、聞こえるか聞こえないかぐらいの本当に小さな声で忍足の耳元で囁いた。

「枕の下に好きな奴の写真いれたら…夢にでてくるっていってた、から」
「……だから俺の写真いれたん?」
「……ためしてみた、だけだし」
「それで、俺の夢みれたん?」
「……ちょっとだけ、みれた」

 でも、と。

「夢のおまえよりも、生のおまえが一番いい」
「……ほんまかわええこというね、景ちゃんは」

 忍足が跡部の頭を撫でれば、跡部は羞恥のためか忍足の胸に顔をうずめてしばらく抱き付いたままの姿勢でそのまま動きを止めてしまった。



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2012/7/1
御題は魔女のおはなし様より


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