■ 乾いたくちびるで攫う永遠

※のっと女体化

 正直、一目惚れだった。
 長い睫に縁取られた瞳、あまり目に優しくない色の鮮やかな赤毛。
 どの部活に入っているんだろう。シューズの紐を結び直す彼女を見て仁王は思った。短パンからのびる足は正に白魚という形容がぴったり合うほどに綺麗で、首筋に伝う汗が日光に反射してきらきら光った。
 仁王は生まれてはじめて、人を綺麗だと思った。



「赤毛の女の子…ですか?」
「そ。学年まではわからんのやけど、知らん?」
「私は存じ上げませんね……それにしても急にそんなことをお聞きになるなんて珍しいですね仁王くん。仁王くんはまるで他人に興味をお持ちになりませんから」

 不思議そうに首を傾げる柳生に仁王は意味深に笑って、今は秘密じゃ、と口元に人差し指をあてた。



 赤毛の彼女と出会ってからはや一週間。あと少ししたらまた彼女がここにやってくるはずだ、と仁王は密かに胸を躍らせていた。

「あっつ―…」

 赤毛のあの子は水飲み場の蛇口を思い切り捻ると勢い良い噴き出す水を顔から浴びた。ぽたりぽたりと水が滴る姿はなかなかにそそられる。
 声をかけようかとも思ったが、いざ彼女を目の前にして何の話をしてよいものかわからない。

「丸井!今からマックよらねぇか?」
「お―さんせ―っ!ちょっと待ってろぃ、急いで着替えてくっから」

 なんと、彼女に男が話しかけた……?まさか彼氏もちだとでもいうのだろうか。否、そんな馬鹿な。
 それよりも彼女は丸井さんというのか、なんて新たに得た彼女の知識を頭の隅に焼き付けて仁王は彼女の行方を目で追う。

――おかしい、

 何がおかしいって、彼女は迷いのないその足取りで更衣室へと姿を消したのだ。そう、男子更衣室の。

「お…とこ……?」

 今現在の展開からいうと、彼女、もとい、丸井さんは、おとこ、ということになるらしい。

「う、嘘じゃ……」

 あんなに可愛い子が男であるわけがない。そうだ、今のももしかしなくても見間違いだったのかもしれない。
 仁王はしばらくその場に立ち尽くしていたが、はっと我に返り、更衣室の方へ目を向けた。
 彼女の制服を拝めば性別がはっきりとわかる。つまりは女子制服か、あるいは男子制服か。


「おまたせ―」
「相変わらず着替えんのはやいなおまえ」
「へへ、すごいだろぃ―」


 あまりに最悪の結末だ。

 丸井は男子制服を召していた。




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2012/6/30
御題は幸福様より


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