■ 君が王子様なら

 普段より少し遅めの電車に乗ったら車内は思いの外たくさんの人でごった返していた。四角い箱にぎゅうぎゅう詰めにされて、通学鞄をもってかれないようにするので精一杯。なんとか隙間を見つけようと足掻くがそんな努力も虚しく、時間が経つほどに人は増えていくばかりだった。
 学校の最寄り駅まであと三十分弱はかかる。そこまでこの状態が続くのは少々嫌だな、なんて思っても今さらどうしようもないので幸村は諦めて低い方の吊革につかまって車体の揺れに身を任せた。
 単調なアナウンスを聞き流しがら幸村は何をするでもなく車内の広告に目を通していた。
 二駅ほど過ぎた頃だろうか、大きな駅について一気に人が乗り込んできた。幸村は車両の隅に押しやられ車体に向かい合う形で固定されてしまった。
 大して辛い姿勢ではないのが救いではあったが背中から圧迫される感覚はけしてよいとはいえない。
 特にすることも見つからず誰かにメールでもしようと思い携帯を取りだそうとした時だ。
 背中ごしに感じる手のひらの感触。始めはただの偶然かと思ったが偶然にしてはやけに的確に体に手が密着する。
 背後で男の含み笑う声が聞こえて、幸村は改めてやばい、と感じた。
 明らかな意志を持った手のひらは幸村の腰から尻をなで上げ、ついには胸をやわやわと揉んできた。
「………ッ!」
 反射的に声をあげようとすると男の大きな手が幸村の口を塞ぎさらに行為はエスカレートする。
「暴れちゃダメだよ。オニーサンが優しくしてあげるからさ」
 耳元でそう囁かれて幸村の体が恐怖で震える。
 男は器用な手つきでワイシャツの上からブラのホックを外すと前のボタンを数個だけ外して下着の上をひとなでしたあと幸村の胸を直接揉みあげた。
「どうしたの?乳首たってるよ……?可愛い反応するね、」
「…っ、……!、…ッッ」
 抵抗しようにも後ろから押さえつけられているし、手のひらで口元を抑えられて声を出すこともできない。
 男はさらに幸村のスカートまでもめくりあげて、下着に指を侵入させた。
 いよいよ身の危険を感じ必死に幸村は身を捩るが男の力は強く、幸村の力では到底かなわない。
「ココ、濡れてるね……もしかして俺に触られて感じちゃった?」


――嫌だ嫌だいやだいやだ……!

―――助けて真田…ッ!!


 ぎゅう、と目を瞑って、迫り来る恐怖に涙が零れ落ちたその時。後ろからさきほどまで幸村をいたぶっていたはずの男の鋭いうめき声が聞こえた。

「何をしている貴様!はやく幸村から離れろ……っ!」

 にわかにざわめき出す車内。いつの間にか人が減っていたらしい車内は人一人が通れるぐらいの通路は出来ていたようで幸村の姿を見つけたらしい真田が瞬時に痴漢を察知し男を殴りつけた。
 真田に腕を捻りあげらた上あっさりと押さえ込まれた男はあまりの痛みに涙目になりながらその場にへたり込んでいた。
 その時丁度電車の扉が開き、真田は無理矢理男を引きずり出し幸村にも一緒について来るように言った。

 男の身柄を駅員に引き渡し、軽い事情を話したところで暫くしてからようやく解放された。
 係のおじさんが気をつかってくれたらしく、落ち着くまでしばらくここにいなさい、と個室を用意してくれた。


「……幸村、」

 真田の骨ばった手が優しく幸村の頭を撫でてくるものだから、溜まりに溜まっていた感情が一気に溢れて止まらなくなった。

「……真田ぁ…っ」
「……こわかったろう、」
 こくこくと幸村が頷けば真田が幸村の頭をゆっくりと撫で、震える唇にそっと口付けた。
「はやく気付いてやれなくてすまなかった……俺がもっとはやくおまえの元へ来ていれば……」
 幸村はぶんぶんと頭を横に振って、真田の胸元が濡れるのにも構わず思い切り抱き付いた。

「真田が……助けてにきてくれて、ほんとに…嬉しかった」

 ありがとう、と。

 改めて愛しい腕に包まれて、幸村は涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、小さく微笑んだ。




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匿名様リク、真にょた幸で微裏とのことでしたがどちらかというとモブ幸的な仕上がりになってしまいました……;
痴漢ネタはただの相楽の趣味でございます……

素敵なリクエストありがとうございました!


2012/6/29
御題はたとえば僕が様より


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