■ グッバイ、俺の爽やかな朝
今日の朝練は通常より三十分ほど早めに始まるらしい。理由はよくわからないがとにかく遅刻しないように、と真田が昨日檄を飛ばしていた。
面倒くさいなぁなんて思いつつも大会を直前に控えていることもあり、流石にサボるなんて発想は冗談でもできなかった。
どうせ早く行くなら、と少し時間に余裕をもって家を出る。仁王にとっては珍しい行動ではあったが別段これにも大した理由はなかった。
慣れた足取りで階段をあがり、人気のない廊下を悠々自適に歩く。正直今の時間なら廊下を自転車で走ってもなにも言われないだろう。まぁ実際にはやらないけれど。
他のクラスはまだ電気が付いておらず無人であることを物語っていたが、予想に反して仁王のクラスだけ明かりがもれていた。稀に見る一番乗りの夢は呆気なく崩れ去り、仁王は軽く肩を落とす。
そんなことよりも。そもそもこんな朝早くから一体誰がいるんだろうか、と軽く首をひねりながら仁王は勢いよく教室の扉を開けた。
「……あ、」
軽い調子でおはようさん、と声をかけようとしたが、その言葉は喉の途中で引っかかってついには出てこなかった。
「な、なんちゅうかっこしちょるんじゃ…ッ!?」
「………?!!」
目の前には下着姿のブン太がいて、目が合った瞬間に全ての事情を飲み込んだらしく今まさにたたもうとしていたワイシャツで胸元を隠した。
「なっなんで仁王がこんな時間にくんだよ…ッ!?」
そう言ってブン太は顔を真っ赤にして仁王を弱々しく睨み上げる。
「女子は部室とは別に更衣室もあるんじゃからこんなとこで着替えんでもええじゃろう!もし俺っち以外がきたらどうするつもりじゃったんじゃ?襲われるかもしれんやろ!」
「誰が俺みたいなやつ襲おうなんて発想に至るんだよ!いちいち更衣室にいくのめんどいから着替えてただけだし…っ」
「ブンちゃんなんか勘違いしとらん?」
「……え?」
「……俺がブンちゃんを襲わんなんて確証なんてどこにもないんじゃよ?」
「なに、いって……」
「ブンちゃんは危機感がなさすぎるき、俺が男のこわさってもんを教えちゃる」
その時にはすでに仁王は朝練の存在なんて忘れていて、ブン太を抱えてそのまま空き教室へと姿を消した。
グッバイ、俺の爽やかな朝
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2012/6/23
御題はJUKE BOX.様より
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