■ 下がらない微熱

「幸村、少し顔が赤いんじゃないか?」

 ぴと、と額にあてられた真田の手のひらはひんやりとした体温を幸村に伝える。

「そうかな?」
「一応保健室に行った方がいい」

 渋る幸村を無理矢理保健室へ引き摺ってきた真田は心配げに幸村の顔を覗き込む。

「熱を出すなんてたるんどる!とか言わないの?」
「阿呆。流石の俺もそこまで言わん」

 保健の先生は不在のようで、勝手に使用するのは悪い、と思いつつも机から体温計を拝借する。

「ほら、体温計」
「熱をはかるぐらいは自分でできるよ」

 幸村が体温計を脇に挟んで暫くしてから体温計がぴぴ、と鳴って、真田は恐々と表示版を覗き込む。
 体温は37度4分。まあ所謂微熱、というやつだ。

「幸村、平熱いくらだ」
「6度ちょっとぐらい」

 このまま授業に出ろ、というのには少々高めの体温だが、早退するまでの熱ではない。咳が出ているようでもないし、悩みどころである。

「一応、ベッドで休んでおくか?」
「……うん、そうしとく」

 無断でベッドまで借りてしまっては流石に怒られてしまうだろうか。
 まあその時は真田が怒られればいい。無理矢理連れてきて無理矢理寝かせました、とでも言えば先生も納得して下さるだろう。

「真田」
「ん?なんだ?」

 毛布から片手だけをのばした幸村の腕が真田の手を掴む。

「その…俺が寝るまで、一緒にいてくれないか」
「別に構わないが…」
「……ありがとう」

 握った手はそのままに、幸村はゆっくりと瞼を閉じる。


 遠くで授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響いたが、それを真田は聞かなかったことにして幸村の手を離そうとはしなかった。



end.
2012/9/30 加筆修正
御題はAコース様より



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