■ とりあえず殴らせて

 廊下を歩いていたら急に首根っこをつかまれてずるずると廊下の端っこまで引きずられていった。

「ちょっ首しまるって!痛いっ!」

 じたばたと暴れる忍足を無理矢理押さえつけて跡部は忍足をじとりとにらみあげた。

「てめぇは何回言ったら理解すんだ?第一ボタンぐらいしめやがれ馬鹿侑士ッ!」

 ご存知の通り忍足は生徒会と風紀委員会にマークされるほどに素行が派手で、制服の着こなしも自由気まま、つまりは乱れまくっている。
 今の時期はまだネクタイの着用は必須であるし、第一ボタンは夏季以外はしめるのがこの学校においての常識。
 のらりくらりとかわしていたのを見咎めて、とうとう生徒会長様直々に注意しにきたらしい。

「だって第一ボタンしめたら首しまって苦しいやんか」
「じゃあサイズの大きいシャツを買え」
「折角あんねんから着なもったいないやろ?」
「おまえの勿体無い精神よりも先に校則を遵守しろ」
「校則とか破るためにあるようなもんやんか」
「俺様に口答えすんのか?」
「俺は思ったこと口にしただけです―」

 拉致があかない会話の応酬に跡部は溜め息をつきつつも引く気はまったくないらしい。

「ならおまえはどうしたらいうこときくんだ?」
「景ちゃんが俺の第一ボタンつけてくれたらそれで話は済むんちゃう?」
「ネクタイは」
「今日は借りる」
「そもそも、第一ボタンぐらい自分でつけられるじゃねぇか」
「俺はつけられへんの」
「要は面倒くさいんだな?」
「そうや、」
「………」

 いよいよ怒りを通り越して呆れてきた。

「今回はつけてやるが次回からは自分でやれ、いいな?」
「は―い」

 わかってるかわかってないか、きっと理解する気もないんだろうが―…跡部は忍足の襟元に手をのばし、第一ボタンを穴にひっかける。

「なぁ景ちゃん、」
「あ?なんだ?」

 片手で跡部のネクタイを引っ張って、忍足は無防備な唇にちゅ、とキスをおとす。

「そういえば、不純同性交遊も校則違反やんな?」
「……っの、屁理屈ばっか言いやがって!」
「校則の穴をかいくぐってきた俺やで?っていうか景ちゃんも校則違反してんねんから人のこと言われへんやんか」


 にやにやと笑みを深める忍足を全力で殴りたかったが、なかばその気もうせて取り敢えず平手打ちをかましておいた。





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2012/6/13
御題はJUKE BOX.様より


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